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感染症法の整備と自粛に対する保障を

格闘技団体の自粛要請を断っての興業実施や海外旅行帰国者が待機要請を断った後の帰宅後陽性判明が問題視されている。

両者共に感染拡大防止という観点からすれば,自粛要請や待機要請に従って欲しかったことは言うまでもなく,私もその立場だ(「今,手緩くないか?」)。

しかし,これらの要請は,あくまで任意の「お願い」に過ぎず法的根拠はない。したがって,これらを「無視した」として単純に非難することはできない。

率直に言って,自粛要請というのはある意味卑怯なやり方である。自粛といえば聞こえがいいが,自粛であればこれによって損害を被っても要請した側が損失補填をする必要がない。泥は一切被らない。

一方で,自粛によって生じる損害を被るのは主催者である。この損害は,開催が大規模であればあるほど,そして準備が進んでいればいるほど大きくなることは自明。財政的に潤沢な広告会社や人気バンドなら多少の損を被っても世間の評判を気にして中止ということも選択できるだろうが、プロレスを含む格闘技団体は財政的に脆弱なところが多い。止めれば即倒産ということがあってもおかしくない。経済的死活問題が目の前にあったとき,それが法的裏付けを伴わない単なる要請や,モラルとしての自制を上回ることがあったとしても不思議ではない。

実効性を持った感染拡大防止策を取るためには法の整備と同時に自粛要請に従った者に対する保障策の整備が必要だろう。

次に,待機要請について。こちらは実はより重い問題である。

この要請は人の移動の自由を制限するもので,旧東ドイツ出身のメルケル首相が国民に呼びかける声明で語られたように本来非常に重い事柄である。法的根拠がなければ本来人から奪うことが出来ないものなのだ。

そして,これは軽症陽性者の自宅・施設隔離にも共通する問題である。

今後感染者数が増大した場合,軽症者でベッドが埋まっていれば,重症者への対応が疎かになりかねない。ベッドの数自体にも限界がある(厚労省によれば最大5000床)。したがって,大阪府が提唱されている重症度によるトリアージ的取扱いは極めて有効な手段である。

一方で,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は政令によって感染症法6条8項の指定感染症とされていて、医学的には入院治療の必要のない陽性者かつ軽症例であっても、法19条により感染症病棟に入院隔離されているのが現状だ。軽症陽性者を普通病棟に入院隔離させるには,現行の規定で足りると思われるが,それ以外の宿泊施設や自宅待機を命ずることができる条文は存在しない(18条に就業制限はある)。

したがって,もし強制力を持った手段として取ることを期待するのであれば,施設・自宅隔離を命ずることのできる法的根拠が必要であるし,それが法治国家として正しいあり方だろう。

日本社会においては,社会的圧力で有無を言わせず人の自由や権利を奪うことが横行している。しかし,普段はこういったことを非難するポジションにあるいわゆるリベラル派といわれる人々も,今回のことについては非難囂々である。これも悪しきダブルスタンダードと言わざるをえない。右であっても左であても,単なる非難で終わるのではなく,法整備についてまで考察を及ぼして欲しい。