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60歳以降の賃金を抑制すべきではない

国家公務員の定年を60歳から65歳に延長するための関連法案の概要が報じられている。60歳以上の給与水準を60歳前の7割程度とすることや50代から60代の給与カーブをフラット化し,50代から徐々に給与水準を抑制するとのことだ。

 

しかし,年金支給年齢を65歳に繰り上げられている現実からすれば,労働者は65歳まで生活のため働かざるを得ず,労働者にとって定年延長もしくは再雇用に応じることは任意ではなく必然だ。その上で,60歳以降においても所掌する業務が同じであるならば,賃金大幅切り下げは,単なる年齢ハラスメントだ。その利益は,一方的に使用者側に生じるだけだ。使用者側からは,日本の年功序列制度の下では若年労働者に比べてコスト高となっていることを是正することに繋がるとの主張もありそうだが,そもそもバブル期以前に比べ賃金そのものが低下しているし,給与カーブもフラット化している。そして,ベテラン労働者の生産性の高さは,現場の第一線を知る経営者の誰もが認めるところであろう。

 

この賃金切り下げは,景気の悪化にも繋がるだろう。今の日本のデフレの原因は,日銀黒田総裁が唱えるデフレマインドなどにあるのではない。労働分配率の低下に伴い,国民の大半を占める賃金労働者層の購買力が低下ていること,生産年齢層の人口が年々減少していることによる需要不足によるデフレだ。60歳以降の給与の切り下げは,それが雇用において競争関係にある若年層の低賃金固定化にも当然直結する。国民全体の賃金低下,ひいては購買力低下をもたらすのだ。

さらに,この法律は司法(裁判所)にも影響を及ぼす。裁判所はこれまで中高年労働者等の特定階層を対象とした大幅な賃下げについても慎重な姿勢であった。こうした中,国家公務員について広く法律により3割の切り下げが認められてしまえば,今まで定年延長もしくは再雇用時に賃金水準を切り下げていなかった民間企業においても広くこれに倣うことが予想され,さらに,司法もこの現実を追認していくであろうことが十分に予想される。

政府は,一億総活躍社会を標榜するのであれば,相応の仕事には相応の賃金を支払うことを前提とすべきであろう。「百姓は生かさず殺さず」の現代版を目指すべきではない。