JR東海の経営問題

JR東海が初の営業赤字と報じられた(日経)。売上高は1287億円と前年同期に比べて73%減った。最終損益は726億円の赤字(前年同期は1313億円の黒字),本業の売上の落ち込みが原因なだけにかなり深刻だ。

新幹線の空き状況というかガラガラさを見ればやっぱり,という感じだが,問題は新型コロナの影響がどこまで続くかだ。

ハーバード大学の4月報告書のとおり2年続く(朝日)とすれば,赤字幅は大きく膨らむであろうし,その間に生活スタイルが大きく変わり,仮に終息を見たとしても出張を中心に継続的に客足が落ち込むことも予想される。

元々リニアの採算性は危うく,2013年当時には当のJR東海社長が「絶対にペイしない」と発言して物議を醸した。そのころ,経営見通しに関して疑問を呈する記事が幾つか出たものだ(東洋経済:https://toyokeizai.net/articles/-/189823,Business Journal:https://biz-journal.jp/2014/06/post_5063.html)。

何しろ,競合するのは自社のドル箱である新幹線。乗客の半数以上は新幹線客の乗り換えを見込んでいるところ,その新幹線客自体が減少するのであれば,共倒れの可能性もある。

さらに,リニア工事も遅れている。その原因については,静岡県だけが悪者視されているが実は各所で工事上の問題が噴出している。

三菱重工業の重荷となっていて「飛ばない翼」とさえ言われているMRJ(日経ビジネス)の二の舞となる恐れもあるだろう。

今後も継続して客足が回復しなければ,これをカバーするために新幹線の運賃値上げが検討課題に上ることは確実。難工事による工事費上昇も負担増となろう。

そして,開業すればしたで二重の運行コストものしかかってくるから,とても当時の想定のとおり,新幹線料金に少し上乗せ程度では済まないだろう。勿論,新幹線料金も上がらざるを得ない。

なぜ今これを言うかといえば,リニアに引っ張られて東京・大阪間の輸送コストが上がることにより国民全体の移動コストが上昇し,日本の競争力の低下と国民所得の実質的低下に繋がることが懸念されるからだ。

心配なのは,一度始めたプロジェクトは何が何でも進めてしまう日本人の特性。勝つ見込みのない第2次大戦に突っ込んでいったのがその象徴。その癖が直っていないことは先のMRJの事例からも窺われる。
東海道新幹線を運営するJR東海は日本に残された数少ない優良企業であり,新幹線の安全性と確実性は日本の誇りでもある。

その折角の宝が,見通しの誤りで万が一にも傷つくことのないよう,リニア事業は一度止まって見直すことも必要だろう。フランスだってコンコルドを諦めたのだから。