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Bプランなき財政再建計画。本気度ゼロ?

平成31年度予算案は史上初めて当初予算案として100兆円を超えた。そのうち32兆円は,国債という名の国の借金で賄われている。ただし,歳出において15兆円が既発の国債償還に充てられるので,国債の純増は17兆円だ。こうして年々増加する国債の残高は日銀によれば昨年9月末で999兆円に達している。

この国債については様々な議論がある。これを心配しなくて良い,という者もあり,その論拠は,①国のバランスシートを作れば,資産も多大にあるから大丈夫である,②国債は国の借金であり,国民の借金ではない,③日本国債は主に国内で引き受けられているので,ギリシャのようにはならない,などである。

しかし,①国の資産は簡単に売れるものではない。また,資産は,帳簿上計上されている通りの値段で売れるものでもない。簡保の財産(かんぽの宿)が,貸借対照表上の価値よりはるかに低い金額で叩き売られたことを思い出して欲しい。倒産処理を経験したものならすぐ理解できるが,大事なのはキャッシュ・フローであり,現金性の資産である。②国が国債を償還する原資は国民から徴収する税金。すなわち,返す主体は国民であり,実質上は国民の借金だ。③日本国内の金融機関(銀行,保険会社)には既に国債引受の余力はない。所得の低下により国民の金融資産(預貯金)が取り崩され,減少に転じているからである。このため,日銀が紙幣を増刷して(現実には輪転機を回すことすらなく当座預金の残高の数字をコンピュータで入力して増やしているだけ)実質的に国債を全額買い支えている。その結果日銀保有国債残高は国債残高全体1000兆円の45%,約450兆円にも達している。これが続けば,国債は暴落せずとも(内国通貨建て(円建て)の国債は,理論上は通貨増発により無限に中央銀行(日銀)が買い支えられる),通貨量の水増しによる通貨価値の減少=通貨安が起こる。ジンバブエのようなハイパーインフレが起こるか,そうでなくとも第2次大戦後の英国のように経済が長期低迷し継続する通貨安によるコストプッシュインフレに国民が苦しみ続けることになる。

さすがに,政府与党も,この野放図な財政赤字をいつまでも放置しておけば「円の信認」が国際的に失われることは意識しているとみられ,「新経済・財政再生計画」において,2026年度でのプライマリーバランス均衡を目指している。

プライマリーバランス均衡について簡単に説明すれば,国債費(償還費・利払費)を除く政策的経費を,税収等で賄うようにするというものだ。平成31年度予算案を例にとって説明すれば,歳出のうち政策的経費は約76兆円,これに対して,歳入のうち税収等は67兆円しかないため,プライマリーバランスは9兆円の赤字だ。

ただし,国債費の純増は,プライマリーバランス(PB)が均衡しても生じる。国債費には利払費が含まれているため,利払費分は,仮にPBがトントンであっても国債が増発されることになる。その関係を平成31年度予算案で下図に示す(純増は正確には17兆2176億円)。

したがって,既発国債残高を増やさないためには,プライマリーバランスの均衡では足らず,利払費と政策的経費の合計額を税収等で賄う必要がある。そうではあるが,プライマリーバランス均衡が財政再建のまずは第一歩だ。これが達成できなければ,二歩目(利払費+政策的経費と税収との均衡)も,3歩目(既発国債残高の減少)も続くことはできない。

その意味でプライマリーバランス均衡は重要なのだが,日本政府のプライマリーバランス均衡=財政再建計画は国内よりもむしろ国外から日本の行く末を指し示すものとして注目されている。しかし,その中身足るや,まるで達成に対する意欲が感じられないものであった。本気度ゼロなのである。このブログを書くために,内閣府や財務省からも聴取を行い確認をしたが,「新経済・財政再生計画」における2025年プライマリーバランス均衡は,すべて経済成長頼みなのである。すなわち,経済の成長とそれによる税収増のみがPB達成の原資であり,それ以外の方法(歳出減等)は一切触れられてもいない。つまり,それのみに依存したものなのだ。

そして,肝心の経済成長見込みの中身足るや,名目GDPで3%前後,実質では1.5~2%程度の高い成長を前提としたものとなっている。

2013年から2017年の実質GDPの伸び率は平均すれば1.2%前後である。2018年はこれよりも落ち込む見込であるし,今年以降の世界経済も中国の景気悪化及び米中経済戦争などの影響により,約10年も続いた異例の長寿景気が落ち込むであろうことはほぼ一致したコンセンサスとなっている。もちろん,景気の予測が必ずしもあたるものではないが,一国の財政健全化計画の基盤となるものである以上,コンセンサスに基づく予測とかけ離れたものであってはならないであろう。計画では,経済成長が下振れした(成長率が潜在成長率程度にとどまった)場合をベースラインケースとしてグラフに併記しているが(実質GDP成長率1%前後),その場合には「試算期間内のPB改善は緩やかなものにとどまる」としているだけである。換言すれば,その場合に目標年限である2026年度にPB黒字化を達成することは諦める,としているだけなのだ。つまり,Bプランはない。これは驚くべきことだ。達成するためのやる気はまったく感じられないというか,ないのである。

日本の財政や経済に対する外国からの目は厳しい。プライマリーバランス均衡のための,「新経済・財政再生計画」はそのためのエクスキューズでもあろう。しかし,日本政府には,2020年度までのプライマリーバランス均衡目標を放棄した前例がある。次に2026年度までのPB均衡を放棄すれば,今度こそ日本政府すなわち日本への信頼は損なわれ,それは「円の信認」が失われることに直結していくであろう。そして,それは国民の生活を破壊する。政府には責任がある。期待される経済成長率に達しなかった場合のBプランが作られるべきである。