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日銀は政府からの独立性を保ち、来たるべきときインフレファイターとしての役目を堅持せよ。

日本ではあまり話題にならなかったが,トランプ大統領は,アメリカの中央銀行であるFRBのパウエル議長に昨年末以来圧力をかけ続けている。洋の東西を問わず,政権にあるものは政権への支持率を上げるため(ひいては選挙に勝つため)経済の好調を望むし,それがトランプ大統領なら尚更だろう。昨年末のNYダウ下落が続いた際に,その引き金となった利上げを行ったパウエル議長の解任を検討したようだし,法的に困難な解任は諦めたようだが,現在も不満を述べ続けているという。

 

さて,話を日本に移そう。日銀の異次元緩和について、私が懸念しているのは「止められないこと」。質的・量的緩和には禁止薬物と同様に依存性、中毒性がある。日銀にとってというより、政府=財政にとってだ。

そして、「止められない」異次元緩和の副作用は、利ザヤ縮小による金融機関の経営悪化、通貨信認喪失によるインフレ、政府の財政規律の弛緩、そしていつか起こるかもしれないインフレに対し中央銀行が通常用いる利上げという手法が取れないことだ。

ただし,日銀が政府に対して独立性を保ち,中央銀行としての矜持を保つことができるのであれば,FRBのように緩和政策をやがて中止し,マイナス金利という副作用の多い政策(質的緩和)は取り止め,同時に国債買い入れ(量的緩和)を停止することが出来るかも知れない。仮に日本にインフレが訪れれば,この両者を行うと共に,伝統的な中央銀行の政策である利上げでインフレに対向する必要があるからだ。

これらの点を含め、4月10日の財務金融委員会で質的量的緩和政策について黒田日銀総裁にお聞きしたが、現状の問題を認められた上で、インフレには利上げで対処する強い決意を示されたのは、逆に驚きであった。以下ご紹介する。

なお、今回の記事では補足的なものとなる、・マイナス金利とは、・イールドカーブ・コントロール,・国債は誰の借金か、・国債残高減少のスタートラインに立つには、・プライマリーバランス黒字化計画に見込みがないこと(GDP見込み関連)、などは末尾に記載した。ご興味がある方は併せてご覧下さい。

 

―日銀の質的量的緩和政策が政府の財政規律を弛緩させないか

(質問要旨)現在の国債残高は、財務省によれば、平成31年度3月末の見込み額で約900兆円。これに特別会計の財投債や国庫短期証券なども含めた日銀の資金循環統計2018年12月末残高では1013兆円。国債に付与されている金利が高ければ、当然、将来の利払いが大変になる。その時々の国債残高の加重平均利率(各々金利が違う国債の全部をならしてみたときの平均的利率)で毎年の一般会計に出てくる国債関係の利払い費は決まるが、本年度予算では8兆8502億円。財務省の900兆円をとった場合に、国債残高の利率の加重平均は約1%。一方で、日銀が長短金利操作で、長期国債、超長期国債に至るまでの利率を下げてイールドカーブをフラット化すれば、将来の国の予算、これにおける国債利払い費を圧縮する効果が、当然生じる。そのような超低金利の国債でも日銀が買い受けるとなれば、国債価格の暴落を心配することなく国債に依存した財政状況が続く懸念があると考えられる。つまりは、日銀の量的緩和政策やイールドカーブ・コントロール=長短金利操作が政府の財政規律を限りなく弛緩させたままにする可能性があると思うがいかがか

○黒田総裁「 財政運営そのものにつきましては、もちろん政府、国会の責任において行われるものと認識しておりまして、具体的にコメントすることは差し控えたいと思いますが、その上で、一般論として申し上げますと、確かに、我が国の政府債務残高が極めて高い水準となっている中、政府が中長期的な財政健全化について市場の信認をしっかりと確保することは極めて重要であります。2013年に政府、日本銀行が公表した共同声明においても、政府は持続可能な財政構造を確立するための取組を着実に推進することとされております

日本銀行としては、物価の安定というみずからの使命を果たすため、現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが必要であると考えておりますし、また一方、政府においても、先ほど申し上げたとおり、持続可能な財政構造を確立するための取組を着実に推進されることを期待しております。

 

 

―日銀の緩和政策の前提となる政府の財政規律維持

(質問要旨)現に、対ドルレートを見てみれば、2011年には七十五円だったものが、111円、ほぼ1/3の通貨価値が失われている。極端な円安は国富の喪失。PBの黒字化がなければ日銀の事実上の財政ファイナンスが続いて、円の信認が失われて、コストプッシュインフレを招くおそれがある。日銀の役目は「物価の安定」を図ること。だから、異次元緩和は、財政再建、財政均衡について政府が協調行動をとることを前提に行われているし、それが、2013年の共同声明三項後段に「財政運営に対する信認を確保する観点から、持続可能な財政構造を確立するための取組を着実に推進する。」という文言に表されていると思うがいかがか。

○黒田総裁 「御指摘のとおり、我が国の政府債務残高が極めて高い水準となる中で、政府が中長期的な財政健全化について市場の信認をしっかりと確保することは極めて重要でありまして、この点は、こうした国会質疑の場も含めまして、これまでも繰り返し申し上げてきているところであります。

日本銀行としては、持続可能な財政構造を確立するための政府の取組が引き続き着実に進められることを期待いたしております。

一方、日本銀行としては、物価の安定というみずからの使命を果たすために金融政策を運営しております。したがいまして、いわゆる出口の進め方も含めまして、先々の金融政策についても、やはり2%の物価安定の目標を実現して、それを安定的に持続するためにどのような措置が最も適切かという観点から毎回の金融政策決定会合において判断していくということになると思いますので、御指摘のような、通貨の信認が失われるようなことのないように、私どもとしても十分適切な金融政策を運営してまいりたいと考えております。

 

 

—インフレが生じた場合の対抗措置

(質問要旨)

心配しているのはインフレ目標、インフレターゲットが2%を達成した、あるいはこれを超えていったとき。今の国債残高から考えると、仮に2%達成後、あるいはこれが昔のように3%、4%、5%になっていったときに、通常であれば利上げということで対抗するが、そうしたら、直ちに政府の利払い費もふえていくことになるし、既存発行の国債が暴落するおそれがある。つまり、日銀が本来的な日銀の存在理由であるインフレに対して立ち向かうときに、通常の利上げという手段がとり得るかどうか、ここが非常に心配になるが、この点いかがか。

○黒田総裁 「物価の安定というのは、日本銀行法にも定められております日本銀行の使命でありますので、それを果たすべく、金融政策を運営しております。したがいまして、2%の物価安定の目標が実現され、それが安定的に持続するように金融政策を運営してまいるわけですので、物価の状況が2%を達成され、あるいはそれよりも上昇していくというようなときに、現在のような金融緩和を続けるということはあり得ないわけでして、当然、そうした場合には適切な金融の引締め策をとっていくということになると思いますが、まだ現時点では消費者物価の上昇率は1%未満でありまして、0.7%とかそういった状況ですので、まだ2%への道のりは半ばというところでありますので、当面、現在の大幅な金融緩和政策を続けていくということは確かでありますが、将来において2%の目標が達成されるというような状況になったときには、当然、適切な金融政策の運営を行うということは日本銀行法でも定められておりますし、また、それに沿って金融政策を運営してまいるということでございます。

 

 

 インフレというのは、ある日突然やってくる。70年の狂乱インフレも突如始まった。日銀には、黒田総裁が言明されたようにインフレファイターとしての役割をしっかりと心に秘めた上で、政策に取り組んでいただきたい。

 

――――――――以下参考―――――――

・マイナス金利とは

 [質問]

(要旨)今、1年満期から10年満期まで、国債はマイナス金利。国債の発行元の財務省が国債を売り出す際(入札方式)には、国債に利息を付けていますが、入札する方がその利息込みの金額より高い金額で入札することによって実現している。例えば、10年物国債は今、0.1%の付利がなされて売り出されています。10年後に元金が返され、毎年0.1%の金利が支払われる。100万円額面だとすれば、毎年100万円×0.001=1000円の利子が入ってきて、10年後には100万円の元金が戻るので入札した方は合計101万円のお金を手にするこ。ところが、この10年国債が、101万8800円で落札されているので、入札者は買った瞬間に8800円損することが確定する。この場合、毎年880円損するので880÷100万円=-0.00088なので-0.088%、0.005%きざみだと切り上げて-0.09%になります。これがマイナス金利の正体ということでよろしいでしょうか。

〇(財務省可部理財局長答弁)「(要旨)おっしゃるとおり。」

 

・イールドカーブ・コントロールでマイナス金利に踏み込む理由

 [質問]

日銀のとっている質的緩和策=イールドカーブ・コントロール(略してYCC)はマイナス金利の国債を買った瞬間に損します。また、一般の金融機関はマイナス金利のものを買えるはずもなく、10年国債まで買いたくても買えない。ゼロを超えて、あえてマイナスまで踏み込んだオペレーションを行われているのはなぜか。(*普通、債券は長期のものほど利率が高いので,金利は償還が長期のものほど高い。住宅ローンの固定金利も,長期ほど高いことはご存知のとおり。このため,金利を縦軸,返済年限を横軸でグラフにとると右肩上がりになるのが普通です。それを長期金利も短期金利とあまり変わらなく低くしてグラフの線を横ばいにする,これがイールドカーブ・コントロール)

〇[黒田総裁]日本銀行は現在、長短金利操作つき量的・質的金融緩和、いわゆるイールドカーブ・コントロールという枠組みのもとで、物価安定目標の実現のために適切なイールドカーブをつくるということを促しております。具体的には、短期政策金利をマイナス〇・一%、長期金利をゼロ%程度とする金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが形成されるように、国債買入れを実施しております。~確かに、最近では、投資家のリスク回避姿勢の強まりなどから、主要先進国の長期金利が低下傾向にありまして、我が国の十年物金利も小幅のマイナスで推移しておりますが、こうした動きはイールドカーブ・コントロールの全体としての金融市場調節方針との関係では問題ないと思っております。いずれにいたしましても、イールドカーブ・コントロールを通じて物価安定目標の実現を目指しているということでございます。

 

・国債は誰の借金か?

[質問](要旨)本年2月19日の当委員会で、麻生大臣は、国債は政府の借金であり、国の借金ではない、とお答えになった。確かに、形式上見ると、債務者は政府なので、政府の借金。しかしながら、その借金を返す原資というのは、個人個人から徴収する税、ある

いは法人から徴収する税。法人も国民が形成していることが多いわけですから、国民が政府に納める税金で賄う、こういう関係になっている。ですから、借金の実質的な返済者は、負担者は、やはり国民ということになろうかと存じます。

 

・国債残高減少のスタートラインに立つには

この借金をふやさないために、プライマリーバランス(PB:基礎的財政収支のこと。国の一般予算の歳出のうち、国債関係費(国債の元金の償還費と利払い費、つまりは国債という名の借金に対して支払っている元利金)以外の一般歳出(社会保障費や防衛費、公共事業費、教育費など)の黒字化が計画されていたが,、2020年プライマリーバランス黒字化は先送りされ2025年に。

PB=基礎的財政収支は、国債関係費を除いたところで収支をバランスさせるにすぎないので、プライマリーバランスが黒字化されても、新規発行国債はなくならず,利払い分は必ず増える。

残高1000兆円あるいは900兆円となれば、加重平均が1%でも、利払いだけで毎年10兆円あるいは9兆円増えていく。

PBとんとんであっても残高は減らない。残高を減らしていくには、利払い費を上回るところまで行かないと1円も減っていかない。本年度予算の利払い費が8兆8502億円。税収が62兆円、税外収入が7兆円、計69兆円。これが87兆円にならないと国債残高が減るところには行かない。つまり、税収などが18兆円も伸びないと一円も減っていかない。

また、基礎的財政収支を超えていわゆる財政均衡(その年度の歳出を国債に頼らずに税収などだけで賄える状態のこと)に達するには、32兆円伸びなければいけない。簡単に言うと、税収が今の1.5倍になって初めて既発行の900兆円は、償還のいわゆる60年ルールに基づき元金を毎年1.6%ずつ減らして完済できるということになる。

 

・プライマリーバランス黒字化計画に見込みがないこと(GDP見込み関連)

[質問](要旨)新経済・財政再生計画では、2025年度プライマリーバランス黒字化のためのプランがは全て経済成長頼み。名目GDPで3%、実質では1.5~2%程度の高い成長が前提で、それ以外のマイナスシーリングや歳出削減などは具体的には計画されていない。つまり、GDPが上昇していくというAプランはあるが、うまくいかなかった場合のBプランは全く計画されてない。だから、予定どおりの経済成長見込みが達成されないときには、PB黒字化も達成できず、国債が積み重なっていく。2013年~2017年の実質GDPの伸び率の平均は1.2%前後、2018年はこれよりも落ち込む見込み。御承知の世界経済も、中国の景気悪化及び米中経済戦争などの影響によって、十年続いた異例の好景気が落ち込んでいるし、今後も落ち込むことはほぼ一致したコンセンサス。ニッセイ基礎研究所が3月8日レポートによれば、2018年度の実質成長率は0.5%、19年度は0.6%、2020年度は1.1と予測。内閣府発表のCI一致指数は、2019年1月には△2.7ポイントの大幅低下で、景気動向指数の一月速報で、これまでの足踏みから、下方への局面変化に下方修正され、二月速報でもこれが維持。

内閣府に伺うが「下方への局面変化の定義」は?

○丸山政府参考人「(要旨)事後的に判定される景気の山がそれ以前の数カ月にあった可能性が高いことを暫定的に示すもの」