青山まさゆきの今を考える > 新着情報 > 日銀よ、異次元緩和の出口を示せ。

日銀よ、異次元緩和の出口を示せ。

 日本銀行が黒田総裁の登場と共に、異次元緩和と呼ばれる金融緩和策を始めてからもうすぐ6年になろうとしている。

 その政策の本質や効果については様々な議論があるが、間違いないのが大量の国債購入が副次的効果を生んでいることだ。日銀の国債購入は年間80兆円を目途とされ、現在はその半分程度ということだが一時は実際にそのボリュームで買い入れが進められていた。その結果、2018年9月に999兆円に達した国債残高のうち44.6%、額にして445兆9347億円は日銀保有だ。

 

 この大量の国債買い入れがもたらす副次的効果(例えば金融抑圧(人為的低金利)による、地銀などの経営圧迫や国民金融資産への実質的課税)は幾つかあるが、日銀や黒田総裁が口にはしないが、将来にもっとも悪影響を与えるであろうものがある。

 それは、国の財政支出に関する規律がルーズになることだ。新規国債発行額のほぼ全額を日銀が実際上買い取っていることにより、財政支出は事実上歳入による制約がなくなる。税収に縛られないだけではなく、国債の買い手を探すことすら不必要となって、無尽蔵に歳出を拡大することが可能となる。現に、平成31年度予算は史上初めて100兆円を超えることがほぼ確実だが、うち税収で賄われるのは62兆円に過ぎない。

 

 このルーズさに対して、政治は敏感とはいえない。野党各党も、個々の予算、特に防衛関連予算(例えばイージス・アショアなどのミサイル防衛システムやF35購入)については目を光らせ批判を行うが、そそもそもの財政均衡についてあまり鋭い批判はなされていない。

 その主要な理由は、政治、政治家とはお金の使い道を競うことをその本質としているからだろう。暮らし向きを楽にする政策、あるいは企業・団体の利益となる政策(例えば法人税減税や補助金の拡大)を採用すれば間違いなく党にとってのアピールとなり、選挙における投票誘導に繋がる。政党も政治家もプロとして存在している以上、自己の存在が強化し拡大される政策を訴えられることは大変な魅力となる。しかし、通常であるならば財源は限られているため、支出にも優先順位を付けざるを得ない。すべての対象(貧困層・中間層・富裕層、給与所得者・自営業者・第一次産業従事者、中小企業・大企業・団体)にいい顔はできないのだ。

 ところが、日銀が異次元緩和という名の国債買取政策=財政ファイナンスを続ける限り、この制約は外れる。すべての対象に同じようにご機嫌取りをすることが可能となるのだ。このところ安倍総理が「私こそリベラル」といった発言をされることがある。リベラルとは多義的だが、おそらく総理が言われているのはが、福祉政策及びそのための支出により「大きな政府」を指向する政治を指しているものとみられるが、それは日銀という名の「打ち出の小槌」を手にしているからこそできることだ。

 現在の野党各党も、おおむねリベラルを自認する政党が主流であるため、日銀の異次元緩和策はむしろ自分たちの政策実現のためには好都合であるため、この点について踏み込んだ批判が行われていないのであろう。私が所属する財務金融委員会でも、この1年間の質問の大半は森友・加計問題や財務省のスキャンダルの追及に費やされ、プライマリーバランスなどの金融政策に関する質問は、野田元総理など特定のフリーな立場にある無所属の委員からなされるだけであった。直近の委員会でこそ参考人として出席された黒田総裁に対し、各野党委員から出口政策関連の質問が幾つかなされたが、森友・加計問題を追及されている時ほどの激しさもなく、意見を承る、程度のやり取りしか行われず突っ込み不足の感があった。

 

 しかし、である。この状況が続けばモラルハザードが蔓延する。すでに、一部の政治家や評論家が、この政策に副作用はなく、むしろ財政均衡を説く一部評論家・政治家は財務省の手先あるいは財務省に乗せられているだけだ、などと公然と批判している。そして、国民の側にもこれに誘導され、消費税増税など不要、景気拡大のための財政支出拡大こそ国民のための政治だ、と考える方も少なからずおられる。

 

 だが、今この財政ファイナンスの悪影響が顕在化していないのは、おそらく米国、EU、中国といった世界の主要国の中央銀行がリーマンショック後、日銀に先行して同様の量的緩和政策(中央銀行の資産拡大とこれと対をなす通貨発行量の増大)をとってきたせいであろう。一国のみが突出して通貨発行量を増やせば、あまり時間を置かずにその国の通貨安を招き、ハイパーインフレを引き起こすことになるだろうが、みんなが協調して行えば目立たなくなる。みんなが通貨の価値を薄めれば、相対的な均衡が保たれることとなるのだ。まさに「みんなで渡れば怖くない」政策が世界的に協調して行われてきたのだが、ここにきて米国、EUはまずは量的緩和政策を停止し(テーパリング)、段階的な資産縮小に移行しようとしている。そんな中で日銀のみ出口政策が取れないとなれば、最悪のシナリオとしては円の信認が失われ、ハイパーインフレが日本を襲うこととなる。これを避けるためには日銀も出口戦略を策定し、出口政策を実行しなければならない。

 

 一方で、日本銀行が出口政策をとっていくには幾つものハードルがある。よく言われているハードルとしては、出口政策を取り始めた途端金利が上昇して既発行の国債価格が暴落し、日銀が債務超過に至る、というものだ。しかし、ハードルとして最も高いのは、実は政治的抵抗であろう。出口政策を取り始めれば、今の財政ファイナンスは行えなくなる。税収で歳出を賄おうとすれば、防衛費のみならず社会保障費、教育費など国民に密着した予算も大幅に削るしかなくなる。あるいは消費増税も含めた増税も必要となるだろう。これらはすべての政党が嫌うところである。

 

 そこで、日銀の政治的独立性が形式的には確保されている今のうちに(日銀法改正という脅しが時折囁かれている)、日銀は出口戦略について明確なフォワード・ガイダンスを示し、その工程を明らかにして政治の甘え―換言すれば財政規律の緩みを是正していくべきなのだ。それが「異次元緩和」という実験的かつリスキーな政策を選択し主導した黒田総裁の責任であろう。