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2000万円年金問題は参院選の争点とは成り得ない。今は、本腰を入れた政策提案を準備すべき時だ。

 本日行われた党首討論。丁々発止のやり取りとなり、興味深いものとなったが、やはり「2000万円年金問題」では政権、安倍首相を攻めるのは無理であったことがはっきりした。今回の討論でメインテーマとなった年金の問題は正面から討議すれば,簡単な解決策などないことはすぐ明らかになる。政府を批判すれば済むというものではない。

 

 立憲民主党の枝野代表は、今までの野党議員の発言とは異なり、煽りの要素を捨てて議論を挑んだが、年金水準の嵩上げは困難であることを認め、他の社会保障政策、労働政策に話を移したが故に、噛み合わない議論になってしまった感があった。

  国民民主党の玉木代表は、新しい財政検証がまだ出てきていないこと、現時点でマクロ経済スライドによる将来の給付水準について、平成26年の財政検証における最悪のケースH以下になりそうなことを指摘された。鋭い指摘であった。これは、私も繰り返しブログで指摘させていただいてきたところ。そうなれば、やがて積立金は枯渇し、国費を大量に年金基金に繰り入れない限り所得代替率が5割を割り込み、4割さえも割り込んでいく。

 ただし、それをどうするかについては、「家計を下支えする経済政策が大事」というあまりよくわからないまとめとなってしまっていた。アベノミクスによる弛緩した財政出動と何が異なるのか、財源はどうなのか、時間の制約があったとはいえ、そこを示して欲しかった。

 

 さて,年金制度の何が問題か。将来の給付水準だ。

 この問題を検討するにあたって,過去の給付水準の変遷をまず見てみる。厚生年金法の全面改正が行われたのが1954年,国民年金法の全面施行が行われたのが1961年。この頃,国民皆年金という現在の制度が形作られた。当初は,積立方式でスタートしたようであるが(この点,以前のブログで賦課方式とした点謹んで訂正いたします),当時は,圧倒的に年金保険料支払者(=支え手)が多かったのであるから,方式がどちらであってもあまり問題とはならなかったのであろう。

 その後の経済成長と人口増大に合わせるように年金の給付水準は,上昇していく(勿論加入期間が長い受給者が増えた影響もある)。和田正彦氏の「公的年金の絶頂期は昭和55年だった!?」という記事によれば,昭和40年には36%に過ぎなかった所得代替率は,昭和44年に45%,そして昭和48年には早くも62%に達している。和田氏によれば,平均加入年数30年で68%もの所得代替率の年金が支給された昭和55年が年金のピークであった。

 それが、加入年数が長くなっても所得代替率が変わらなくなり、また、それまでは夫一人の厚生年金で算出されていたものが、やがて夫婦の年金の合計が基準とされるようになっていく。日本の官僚・政府お得意の数字の誤魔化しがここでも行われているのだ。

 平成26年の所得代替率は62.7%。この数字でも、家計調査(金融庁の家計報告書の元データ)では、平均値ではあるが高齢無職世帯は、月5万円、貯蓄を取り崩して家計に組み入れている。この5万円は、現状では生活水準を維持したり子や孫への援助に使われていて節約可能な範囲内と数字上は解釈できる。だが、所得代替率は、将来的にはほぼ確実に5割を割り込まざるを得ない。現在の設計では、5割を割り込むときにそれでもマクロ経済スライドを適用するかはそのとき検討することになっているが、そういう状況ということは経済縮小が続いているということ。そのとき財源確保は至難の業だろう。この先さらに年金水準が低下すれば、厚生年金受給者であっても、年金だけでの生活は困難になる。すなわち実質的な部分的年金破綻が既に見込まれているのだ。

 そして、勿論、現状7万円未満の国民年金では、生活水準を維持することは極めて困難、という大問題も存在している。酷暑にもかかわらず、畑で農作業されて熱中症でなくなる高齢農業者の方が毎年おられる。その背景には、国民年金がナショナルミニマムを満たしていない、という背景があるのだ。

 将来にわたって年金水準を5割に維持していくためには、あるいは国民年金とナショナルミニマムを考えた時、年金制度には今以上の国費投入が不可欠であり、財政破綻なくこれを可能にするには、国民負担率の上昇が不可欠であろう。もちろん、それは消費税に限るものではなく、法人税や所得税、配当金・株式譲渡益への課税強化も課題となる。これら税制において、所得の把握が網羅的に可能となり、かつ情報処理が高度化かつ容易化になった現在においては、一律あるいはテーブル制の税制ではなく、個々の所得・利益額に応じた指数曲線的な税制とすることも可能であろう。

 党首討論を聞いてみて、年金の問題を参院選の争点とするのは無理だと感じた。野党側に真の問題点である年金水準の維持あるいは高齢者の生活維持のための社会制度変革への提案の準備ができていないのだ。

 ただ、次の総選挙まではまだ時間がある。野党あるいは次を担う新しい勢力は、十分に備え、国民に未来を提示する準備をしなけらばならない。