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議論から逃げているのは誰か?何の議論から逃げているのか?

野党は憲法議論から逃げている、こういう声が聞こえる。しかし、今の政治、あるいは各政党が逃げているのは100年に一回あるかないかの憲法改正というレアな問題ではない。目の前に存在する、最も重い課題から逃げ続けている。そこに与野党の差はない。

本来であるならば、周智を結集し、すべてをさらけ出して国民的議論を行うべき3つの課題を挙げよう。

1 財政、2 社会保障、3 安全保障、である。

最初に挙げた財政。現在の国債残高は,財務省による平成31年度3月末の見込み額は、994兆円、日銀資金循環統計の2018年12月末残高は1013兆円、いずれにしろ約1000兆円に上っている。毎年の一般会計予算に出てくる国債関係費は、この積み重なった国債という名の借金の元利払いだ。

まず、元金は、国債残高の1.6%分。国債には60年で償還するという60年ルールがあり、これに従って毎年1.6%ずつが返済される。1000兆円あれば16兆円ということになる(一般会計にはのってこない復興債などもあり、今年度の一般会計歳出での償還費計上額は14兆6580億円)。また、その時の国債残高の加重平均利率で毎年の利払いが決まることになろうが、本年度予算の利払い費は8兆8502億円,これから推定すると1000兆円の国債残高の利率の加重平均は約0.9%程度だろう。

財政収支(税収が国債関係費のうち利払い分まで賄うこと)が黒字化しないと、この合計23兆円あまりの国債関係費、つまり借金の元利払いは今後少なくとも60年に渡り継続し、国民を苦しめ続けることになる。

今、政治的課題とされている基礎的財政収支(プライマリーバランス・PB)とは、国債関係費を除いた部分の収支を合わせるだけなので(税収が、国債関係費以外の一般歳出と均衡)、仮に均衡に達したとしても利払い分は赤字のままで、その分(今年で言えば14.6兆)国債残高は増えていくことになる。

問題は、現状1000兆円の国債残高を減らす手段がないことだ。

以前のブログ(「Bプランなき財政再建計画。本気度ゼロ?」)で触れたが、基礎的財政収支を均衡させるためのプランは、景気頼み、つまり景気向上により税収が増えるということをプランしているだけ。この17年間同じことの繰り返しで全く実現していない(内閣府・中長期財政計画)。最新のプランでも、名目GDPで3%前後,実質では1.5~2%程度の高い成長が続くというおよそ現実離れした机上の計画が立てられているだけだ。

現実的な計画を立てるのであれば、歳出を削るか、歳入を増やすか、あるいはその両方を行うしかない。しかし、両者ともに限界があることははっきりしている。まず歳出。レフトサイドからよく言われる防衛費だが、実は防衛費を削減しても焼け石に水。防衛費は増えてきたとはいえ未だ5兆2000億円(5.2%)。半減させても2兆円にしかならない。

一方で、日本の財政の内、最大の割合を占める社会保障費は34兆円(34%)に上るがこれから高齢化が進み増大こそすれ削減など見込みすら立たない。やはり大きな割合を占める地方交付税交付金も16兆円(16%)で、これも地方自治体の財政の大本であり削ることは困難。手を付けられるとすれば公共事業費6兆円(6%)だが、これも半減させても3兆円。仮に防衛費と公共事業費を各々半減させても5兆円にしかならず、利回り費用の3分の1に相当する新規国債発行を減らせるだけ、やはり借金は年間10兆円のペースで増えていく。

一方で歳入だが、これもよく言われるように法人税課税の強化や個人の累進所得課税強化にも問題がある。法人税の実効税率は、現在29.74%。主要国と比較して小数点以上で日本より多いのはフランスだけ。

(引用元:財務省 法人課税に対する基本的考え方

 

 また、仮に法人税率を現行の23%から10%上げても単純計算では6兆円程度の増収にとどまる。国際的にみて突出した税率となってしまうため、アメリカの多国籍企業のように大企業や小回りの利く優良中小企業の海外脱出が増え、計算通りにいくかどうか。

 個人への累進所得課税強化はどうか。実は日本の累進課税はまだまだ厳しい。所得4000万円超の場合、住民税を合わせた実効税率は55%。主要各国では最も多いパーセンテージになっている。

また、所得階層で高い層に累進課税を強化しても、高い層の税収に占める割合は相対的に少なく、税収はたいして増えない。かといって圧倒的に多数を占める低・中間層への課税を強化すれば、国内経済を支えている消費層の消費力が落ちて経済が縮小してしまう。

では、消費税はどうか。消費税については、国際的にみれば未だ低い水準にある。EU諸国は25~20%が多いので、仮に予定通り10%に増税されたとしても半分以下だ。2018年11月に自民党税調の野田毅最高顧問が20%まで上げることを示唆したことを報じられたが、それは、国際比較を念頭においたものであろう。しかし、消費税は、国民の購買力を直接はく奪する性質を持つ税だ。社会が順調に発展している段階において、かつ、社会保障が充実して信頼のおけるものであればともかくとして、現状の日本で消費税倍増を図ることは経済におけるスーサイドに繋がるおそれもある。現在の日本は少子高齢化が進んでボリュームとしての消費層が減少し、しかも個々の所得が往時よりも減少している。すなわち消費力が質的量的縮小にある中で、消費税を倍増させれば、極端な経済縮小を招く恐れが大きいと考えられる。

以上のとおり、歳出・歳入面の努力で、1000兆円に積みあがった借金を減らすことは解決不能に近い。

これは10年積み重なった現実だ。下の図表をみてほしい。随分急激に借金が増えたなと思われるであろう。

(引用元:財務省 3.公債残高の累増

しかし、実はこれは10年前に作成されたもの。平成5年ころには150兆円程度しかなかった国債残高が、平成20年には553兆円に急拡大したことに財務省が警鐘を鳴らしたグラフだ。それから10年。国債残高は倍増し、1000兆円となってしまった。その後の歴代政権や財務省もそれなりにこの問題を意識してはきたのだろうが、国債残高は縮小するどころか倍増してしまったというのが現実であり、この問題の解決の困難さを示している。

 そして、現状はさらに深刻さを増している。日銀の「質的量的緩和政策」とは、この解決不能の財政問題を金融政策によって支えている側面を持つものだ。質的緩和とはゼロ金利政策。つまり、1000兆円の国債の利払い費を低く抑えて財政を維持可能とするものだ。現に10年債に至るまで現在はマイナス金利。10年分の利払いを含めた総額(額面100万円、付利0.1%とすれば10年分で101万円。それよりも高い価額(例えば101万8000円)で売り出し元の財務省から入札者は落札している。買った瞬間に損が確定するという極めて不健全なところまで今、進んでしまっているのだ。そんな落札者があてにしている転売先は日銀しかいない。

また、量的緩和とは、日銀が新規国債の実質的な買い手となること。日銀のバランスシートで2016年と2017年を比較すれば、約30兆円国債残高は増加している。つまり、一般会計歳入に表れる新規国債発行額32兆円のほぼ全額を日銀が購入しているのだ。これを財政ファイナンスと言わずしてなんというのか。この副作用は、すでに利ザヤの縮小(貸出金利と、貸出資金の原資として受けれている預金に対して支払う預金金利との差額が利益となる、というのが銀行の基本的ビジネスモデル)として地方の金融機関を直撃し、連続赤字を計上するところが増えてきているが、最大の副作用は通貨の信認の失墜だ。いつかはやってくる。最近麻薬を20年以上常習していて逮捕されたタレントがいたが、まずいことを続けていれば、そのいつかはやってきてしまうのだ。そのことに薬物依存か国債依存かに変わりはない。通貨の信認失墜は、輸入物価の高騰を招く。だが、国民所得は上昇しない。需要が引っ張るディマンド・プルではなく、価格上昇が引っ張るコストプッシュ・インフレは国民生活の窮乏をもたらす。このインフレに対して通常中央銀行が行う利上げ政策を取れば、既発行の国債価額が下落し、保有する金融機関に実質的な信用不安が起きる恐れがある。また、利上げは国家財政も直撃する。利払い費が増大すれば、予算が圧迫され成り立たなくなってくる。

(この項目のまとめ)

現状:①国債残高1000兆円

   ②今後少なくとも年15兆円程度は増え続ける

解決不能な理由:

人口減やこれと密接に関係するGDPの横ばいから考えて、税収の伸びは期待できない。法人税・所得税を増やしても足りないし優良企業・高所得者の海外移転を促してしまう。消費税増税は、直接的に可処分所得を減らすため、ただでさえ経済縮小傾向にあるところこれを推進してしまう。

放置した場合の将来的課題:

現状では質的緩和により金融機関の経営が圧迫されるという副作用が出ている。より深刻な問題としては、日銀による財政ファイナンス(=質的量的緩和)を続ければやがて日本の財政に対する信用が失われる。そうなったときに起こる円安=コストプッシュインフレでは国民の所得は上昇することなく物価のみが上がる。そうなれば、国民は長期間実質所得の減少に苦しむこととなる。また、インフレに対して中央銀行が利上げで対抗することが難しい。利上げは国債価格の暴落をもたらし、金融不安を誘発する。予算も、利払い費の増大で圧迫される。

今回はまず、財政の課題について詳しく書いたが、今後、社会保障と安全保障についても論考を進めたい。

簡略に今の問題意識について紹介すれば、社会保障の課題は、端的に高齢人口の増大と若年者人口の減少に起因するもの。特別会計も含め社会保障費の2大支出先は医療給付と年金給付。医療給付は、年齢階層別に高齢世代になるほど一人当たりの年間医療費は顕著に増大する。当然年齢階層別人口分布において高齢者の比重が大きくなれば国家財政における医療給付費は増大する。

また、年金において取られている今の賦課方式は、人口増大社会を前提とし、その中で合理性があった制度。人口が増大局面にあるときは、支えられる人数が少なく、支える側が多い人口構造(ピラミッド型)であれば双方に負担は少ない。しかし、現在のような花瓶を逆さにしたような人口構造の社会では、支えられる側の人数が多く、支える側が少なくなる一方なので、若い世代であればあるほど損をする。損をしながら生きていくことが国家によって決められている社会とはいかがなものであろうか。ジム・ロジャースが、自分がもし10歳の日本国民なら「AK-47を購入するか国外に去ることを選ぶ」と述べたのもわからなくもない。

安全保障も長年、避け続けられている課題だ。沖縄の辺野古を始めとする基地問題は、本当に解決を図ろうと思ったら、今の隷属的側面が色濃い日米関係を変えていくしかない。そしてそれは日本の安全保障の大局的な設計を抜きにしては語れないし、憲法9条改正問題も、その大局的設計があってこそ議論されるべき問題だ。

なお、念のため補足すると、今回の記事の目的は次のとおり。国民が今の国の真の姿を知るべきであるし、政治がそこを敢えてスルーしているのは極めて無責任だと思っているからだ。現状を明らかにし、将来待ち受けていることについて、たとえそれが見たくない真実であったとしてもそれを当事者に告知すべきだというのが、今の専門家のあり方。それが医師であっても弁護士であっても国会議員であっても同じことだ。その上で、苦い現実をさらに苦いどのような方策で乗り越えていくのかを国民と一緒に模索し、合意を得ていくというのが民主主義の正しいやり方であろう。

私は、この難局が現政権ひとりの問題だとは思っていない。ここに至るまで政治に関与した全ての政権、政党には同等の責任がる。この問題は、安倍政権やそのメンバーを個人攻撃しても解決しない。政治家として国民として本当に将来の日本に対して責任感があるのであれば、誰かに責任を押し付けるのではなく、課題に正当に向き合うべきだし、そういった姿勢を持った政党こそ、次の政権与党として国民が待ち望んでいるものであろう。ブルーオーシャンは未だに開けたままだ。