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緊急事態宣言では医療崩壊は防げない

東京都の小池知事らの要請に押される形で、菅総理が首都圏への緊急事態宣言の発令に踏み切る旨を記者会見で述べた。

 

飲食店を悪者にして、「始めに緊急事態宣言ありき」のような報道を繰り広げてきたマスコミや一部野党は溜飲を下げているかもしれない。

しかし、日本の中途半端な要請ベースの緊急事態宣言で、本当に首都圏の事態は変わるのだろうか?

 

気になるのはイギリスの状況。地域を区切ってまずは11月5日から12月2日まで、3段階のロックダウンで最も厳しいティア3(非常に高い)を導入し、

  • 自宅の庭や接客業の店舗など、屋内外での他世帯との集会は禁止
  • 公園などの公共スペースであれば、屋外で6人以内の集会が認められる
  • パブやレストランは配達やテイクアウト営業のみ
  • 屋内の娯楽施設は営業停止
  • 地元以外への移動は推奨されない
  • 美容院などは営業可能
という措置を取った(BBC)。これにより1日2万人前後の新規陽性者数が一旦1万5千人前後にまでは下がったがその後すぐに上昇に転じ、年末からは1日5万人前後にまで拡大して昨年12月31日にはさらに厳しいティア4(自宅待機)が導入された。
 規制が強化されたのはロンドン(全32地区とシティ・オブ・ロンドン)やイングランド南東部と東部の各州。
これによって現在、イングランドの人口の78%がこの「ティア4」下にあり、生活必需品を扱う店舗以外は営業を停止し、住民は通勤・通学など特定の理由を除き、自宅を出ることができない(Yahoo,BBC)。
しかし、この厳しい規制にもかかわらず、年が明けても1日5万人以上の新規陽性者数が続いている。
 
イギリスがここまでの厳しいロックダウンをしなければならない理由、そしてそれでも収まらない理由は、変異株の出現。
イギリス在住の医師・免疫学者の小野昌弘氏のレポートによれば(「英国と世界がコロナ変異株に警戒する理由」)、

「英国はもともと感染症の研究、公衆衛生・疫学・統計、ゲノム配列を決定するためのシークエンス技術といった科学に特に強い。そしてコロナ変異株の研究にはこの全ての分野が必要になる。これら全ての分野の科学者が参加した全英的共同研究チームCOG-UKが、パンデミック初期であった4月に設置。それ以来、COG-UKは日々変異株のモニタリングと性質の検証をしてきた。」

という。日本では考えられない素早い専門的対応により「英国は140万人の感染者をPCRで確認し、そのうち14万人分の検体のウイルスゲノム全配列を決定」したというのだから驚かざるを得ないが、これによって浮かび上がったのが「変異株B1.1.7(現在はVOC202012/01とよばれる)」の流行。

 

この変異株B1.1.7は「際立って多くの変異(17箇所のアミノ酸変化を伴う株特異的な変異)があり、8つの変異はスパイクタンパク(Sタンパク)にある」。そして、そのうち筆頭の「変異N501Y」は、「ヒトの細胞にあるタンパクACE2に結合しやすくなるとみられている。これがどの程度感染の動態を変えるのかはわかっていない。」

「また、N501Yは、マウスに対する病原性を強め、マウスに重症肺炎を起こすようになることがわかっている。しかし、人間でコロナ感染の病像を変えるか、重症度を変えるかどうかはわかっていない。」ということなので、警戒せざるを得ない特徴を持つ可能性がある。

 

このため、前記の通り11月5日―12月2日のイングランドのロックダウンで、北部イングランドでは流行が抑えられたものの、

「ケント州とその周辺では11月のロックダウンにもかかわらず流行の抑制がうまくいっていなかった。そして12月のロックダウン解除後1週間もたたない12月8日までにケント州で流行の明確な増加がみられた。 そこでイングランド公衆衛生局は増加の原因を詳細に分析。これにより、ケント州から採取されゲノム配列が決定した915検体のうち828検体は変異株B1.1.7によるものであることが判明した。」

つまり、日本とは比較にならないほどの大量かつ詳細な分析により、客観的かつ科学的にロックダウンが機能しない理由が「変異株B1.1.7」の流行によるものであることが突き止められているのだ。

そして、「爆発的な変異株B.1.1.7の流行地域では、感染者数の急増にともなって、入院患者・重症患者が急増し、春の第1波にくらべても、かつてない最悪のレベルにまで医療が逼迫している」

 

 

さて、話を日本に戻そう。

日本でも、検疫に置いて「変異株B1.1.7(VOC202012/01)」の陽性者は確認されている(厚労省)。日本の検疫は、一歩検疫所を出ればあとは入国者の自主性に任せられている「ざる」なので、陽性反応が出ない(偽陰性もしくは感染から間がない者)によって既に国内に持ち込まれていることはほぼ確実だろう。現に成田空港のある千葉県において発熱者などの初期診療にあたられている開業医の方が、抗原検査で瞬時に陽性反応が出る新しいタイプの患者の出現とその数の多さに驚き、変異株との関連を推察する投稿をFacebookに投稿されている。

 

仮に現在の首都圏における新規陽性者数の急増の原因が、この「変異株B1.1.7(VOC202012/01)」に関連するものだとしたら(あるいは今後これに関連した感染拡大が起きるとしたら)、イギリスに比べてはるかに生ぬるい日本の緊急事態宣言など、流行の制御・抑制に何の役にも立たないだろう。政治家のパフォーマンスには役立つかもしれないが、結局は、彼女ら、彼らの自己満足感を充足するだけだ。

そして、この変異は、全国に広がる・あるいは既に広がっている可能性がある。

 

やはり、今直ちに取り組むべきは、人為的コントロールが困難な「変異株ウイルスの感染拡大」に対する対策ではなく、人の努力によってなしうる「医療体制の強化・拡大」である。

これは国や地方自治体のトップ、そして医師会など関連団体がやる気にさえなれば難しいことではない。EUなどが既に実施している事ばかりだからだ。具体的には次のような措置。

民間病院の軽症者・中等症者の受け入れ病床を増やし、国公立病院(大学病院含む)に重症者用病棟を設け、一部は専門病院化する。全国に複数ある自衛隊病院の軽症者・中等症者受入病院化も検討すべきだ。

また、県境に壁が設けられている訳ではないので、国がコントロールして全国に患者の割り振りと輸送を行うべきだ。どうせ面会は出来ないのだから、患者にとっても不便はない。

医療従事者の融通も進めるべき。インフルエンザがこれだけ下火というかほぼない状況からすれば、全ての医療機関で逼迫が起きているはずもない。余裕があるところも逆にあるはず。

そして、当然ながら、これらの全てに対し、財産的補償や報奨はきちんとなされるべき。

 

年末にSNSで知己を得たある著名な医療関係者は、上記のような私の意見に対し、

「多数の病床を持つ公立病院でさえコロナを見る病床が拡大していない。それなのに民間企業にお前ら従えと一方的に言えますか?経済的人的補償もなしに。」

とおっしゃった。確かにその通りだろう。であるならば、この点に関する特措法改正も当然必要になる。

 

菅総理に強く提言したい。マスコミの圧迫やそれに扇動された世論の圧迫で、パフォーマーである小池東京都知事らの緊急事態宣言要請を受け入れざるを得なかったのは、「政治」の宿命だったかもしれない。しかし、真に実効性のある改革を目指されている総理なのだから、同時に「医療体制の強化・拡大」について直ちに着手していただきたい。

 

特措法改正が政治日程に上っている今、この点についての欠缺を埋めることこそ真に取るべき政策だ。