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稀勢の里を引退に追い込む力士の怪我。公傷制度を復活させよう。

 久しぶりの日本人横綱,稀勢の里がピンチを迎えている。

 進退のかかった初場所で連続黒星スタートとなってしまった。そもそも,稀勢の里がつまずいたのは横綱として初めて臨んだ2017年3月場所13日目に左胸筋損傷の大怪我を負ったからだ。無理を押して15日目から再出場し優勝したが,翌場所も完治しないまま出場して途中休場。以降,出ては途中休場そして全休の繰り返しだ。これは他のプロスポーツではあり得ない事態だ。

 

 例えば,野球。昨年,メジャーで大谷翔平選手が靭帯再建手術を受けたが,そこに至る過程で怪我をする度に,怪我の程度や治療方針,復帰までの見込が発表されていた。当然,選手もそのスケジュールに従ってじっくりと治療と回復に励むことができる。

 

 しかし,大相撲では,怪我の詳しい内容もあまりはっきりとせず,診断書に記された診断名と全治期間がアナウンスされる程度だ。これでは,治療方法も,期間も復帰までのスケジュールも,すべては力士自身の判断に委ねられているも同然で、スポーツ医学などの知見に基づいた最善の復帰に向けたプランが策定されるとは到底考えられない。また,ファンやマスコミも,客観的情報が与えられないため,稀勢の里のようなはっきりとしない経過を辿っていることの責任が本人の努力不足にあるのか,それともリハビリを含めた治療が誤っているからのか,怪我の性質上復帰自体に無理があったのか,あるいは年齢的な限界なのか,などの判断ができず,感情的な批判や報道が繰り返されることとなる。

 

 これでは,プロスポーツにとって宝というべき選手を守ることができない。ましてや稀勢の里はここ10数年絶えて久しかった久しぶりの日本人横綱,大相撲の至宝ともいうべき存在だ。このような状況が繰り返されることは,ファンにとってもよろしくない。

 一方で,現在の力士全般の体格の向上による肉体の負担は,人間が耐えうる限界におそらく達している。平均体重160kgを越える巨漢力士たちが防具もつけず全力でぶつかり合い,時には土俵下に転がり落ちるのであるから怪我がないほうがおかしい。大相撲自体,力士の怪我を前提としたプロスポーツであるといっても過言ではないだろう。

 

 そこで提言したいのだが,以前は存在した公傷制度を現代化して復活させ,合理的な治療と回復を行える制度を整えたらどうだろうか。具体的には,怪我の種類と程度によってある程度治療期間,方法並びに復帰に向けてのプランを標準化し,その間は番付を維持するなどが考えられる。また,公傷制度廃止の遠因となった恣意的な公傷申請を防止するためには,力士が選択した医師による詳細な報告だけでなく協会が提携する実績ある医療機関による判断のWチェックを行うなどの整備を行えばよい。

 

 伝統は尊重しつつ,必要な部分は合理的な刷新を行って行く。すべての組織と同様に,相撲協会にも求められているところであろう。