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福島県における小児甲状腺がん検査への提言(2017.5.16修正版)

(*先行検査に関する平成27年度追補版により数値を修正)。

福島県では小児甲状腺がんの全数調査といわれるもの(福島県民健康管理調査)が行われている。その結果の評価については意見が分かれているが,事実を元に現状の評価を客観的にまとめ,その上で提言を行う。なお,根拠についてはリンクを示したので参照されたい。

 

 

1 調査の概要

https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/165102.pdf

 対象者:震災時概ね18歳以下の全県民

 内 容:甲状腺超音波検査

  ただし,この調査対象者は先行調査(一巡目検査)と本格検査(二巡目検査)に分かれている。

http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/143676.pdf

①[先行検査](一巡目検査)

 実施期間 平成23年10 月~平成27年4月30日(当初予定を1年間延長)

 対象者  平成4年4月2日から平成23年4月1日までに生まれた福島県民

②[本格検査](二巡目検査)

 実施期間 平成26年4月2日~

 対象者  平成4年4月2日から平成24年4月1日までに生まれた福島県民

 *両調査とも福島県外に居住している福島県民を含む(http://fukushima-mimamori.jp/thyroid-examination/schedule-fukushima/

 

2 判定結果の基準

http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/143676.pdf

①一次検査

 A 判定 (A1)結節又はのう胞を認めなかったもの。

     (A2)結節(5.0 ㎜以下)又はのう胞(20.0 ㎜以下)を認めたもの。

 B 判定 結節(5.1 ㎜以上)又はのう胞(20.1 ㎜以上)を認めたもの。

  なお、A2 の判定内容であっても、甲状腺の状態等から二次検査を要すると判断した場合は、B 判定としている。

 C 判定 甲状腺の状態等から判断して、直ちに二次検査を要するもの。

  *結節:「結節」(しこり)とは甲状腺の一部にできる充実性の変化

   のう胞:体液の貯まった袋状のもの(http://www.jabts.net/koujyousen-jigyou/kijun/index.html

②二次検査

 一次検査の結果、B 判定又はC 判定となった場合は、二次検査となる。二次検査では、詳しく超音波検査を行った後、採血、尿検査を実施。更に必要があれば、結節から細胞を採って検査をする穿刺吸引細胞診を行う。

3 検査結果

①先行検査(平成28年6月6日)

http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/129302.pdf

http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/167944.pdf

一次検査

 対象者367,672人のうち、300,476人が受診し受診率は81.7%であった。

   内,A判定(A1及びA2判定)の方が298,182人(99.2%)

     B判定の方が2,293人(0.8%)

     C判定の方が1人

二次検査(平成28年3月31日現在)

 一次検査結果がB,C判定であった2,294人のうち、2,128人(92.8%)が二次検査を受診し、結果確定者は2,086人(98.0%)であった。

 その2,086人のうち、710人(表3の次回検査A1の132人とA2の578人)(34.8%)は詳細な検査の結果A1もしくはA2判定相当として、次回検査(本格検査)となった。

 一方、1,376人(66.0%)は、概ね6か月後または1年後に通常診療(保険診療)となる方等であった。この1,356人のうち、545人(39.6%)が穿刺吸引細胞診検査を受診している。穿刺吸引細胞診を行った方のうち、116人が「悪性ないし悪性疑い」の判定となった。116人の性別は男性39人、女性77人であった。また、二次検査時点での年齢は8歳から22歳(平均年齢は17.3±2.7歳)、腫瘍径は最小5.1mmから最大45.0mm(平均腫瘍径は13.9±7.8mm)であった。

 また,内102人が手術を受け,101人が悪性と確定している(上記PDF②-49資料7)内訳 乳頭がん100人,低分化がん1人,良性結節1人

結論:吸引細胞診の結果,116人が「悪性ないし悪性疑い」とされ,内102人が手術を受け,101人(99%)が悪性と確定

*ただし,この結果には二次検査中に経過観察として保険診療に移行した対象者2525人が含まれていないという,過小評価に繋がる重大な欠陥がある。(http://fukushima-mimamori.jp/qanda/thyroid-examination/thyroid-exam-other/000396.html)(http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/2108

 

②本格検査(平成28年12月31日現在)

http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/201727.pdf

一次検査

 対象者381,282人の内、270,489人(70.9%)の検査を実施。

 A判定(A1及びA2判定)の方が268,242人(99.2%)、B判定の方が2,226人(0.8%)、C判定の方は0人であった。

二次検査

 穿刺吸引細胞診を行った方のうち、69人が「悪性ないし悪性疑い」の判定となった。

 69人の性別は男性31人、女性38人であった。また、二次検査時点での年齢は9歳から23歳(平均年齢は16.9±3.3歳)、腫瘍の大きさは5.3mmから35.6mm(平均腫瘍径は11.0±5.6mm)であった。

 なお、69人の先行検査の結果は、A判定が63人(A1が32人、A2が31人)、B判定が5人であり、先行検査未受診の方が1人であった。

 また,内44人が手術を受け,44人全員(100%)が悪性と確定している(②-22別表6)。内訳 乳頭がん43人,その他の甲状腺がん1人

結論:吸引細胞診の結果,69人が「悪性ないし悪性疑い」とされ,内44人が手術を受け44人(100%)が悪性と確定

*ただし,この結果には二次検査中に経過観察として保険診療に移行した対象者2525人が含まれていないという,過小評価に繋がる重大な欠陥がある。(http://fukushima-mimamori.jp/qanda/thyroid-examination/thyroid-exam-other/000396.html)(http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/2108

3 結果のまとめ(平成28年12月31日現在)

  対象者総数381,282人のうち,実調査数は最高で約31万人{300,476人(先行調査実施数)+9640人((本格調査対象者381,282-先行調査対象者367,672)×本格調査受診率70.9%)}

  内185人が吸引細胞診により「悪性ないし悪性疑い」とされ,内146人が手術を受け,145人(99%)が悪性と確定、1名が除外。したがって「悪性ないし悪性疑い」は184人。発症率0.0593%,100万人あたり593人。

  *ただし,この結果には二次検査中に経過観察として保険診療に移行した対象者2525人が含まれていないという,過小評価に繋がる重大な欠陥がある。(http://fukushima-mimamori.jp/qanda/thyroid-examination/thyroid-exam-other/000396.html)(http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/2108

4 他の結果

①従前の研究による発症率

https://www.hindawi.com/journals/jtr/2011/845362/

 米国SEER (Surveillance, Epidemiology and End Results)コホート研究における20歳未満の甲状腺がん患者1753名のデータによれば、女子では10万人当たり0.89人、男子では10万人当たり0.2人の発症率とされる。

 つまり,男子と女子が同数と仮定すれば,100万人あたり5.5となる。なお,コホート研究とは「特定の地域や集団に属する人々を対象に、長期間にわたってその人々の健康状態と生活習慣や環境の状態など様々な要因との関係を調査する研究」

②対照実験としての3県調査

 (http://www.jabts.net/koujyousen-jigyou/index.html)(http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=17965

 (https://www.env.go.jp/chemi/rhm/attach/rep_2503a_full.pdf

 環境省は,前記福島県における全数調査結果を受け,平成24年度甲状腺結節性疾患有所見率等調査事業(以下「3県調査」という。)として、福島県以外の地域(青森、山梨、長崎)において、18歳以下の者を対象に甲状腺超音波検査を行った。

 判定基準は福島県調査と同じであり,A判定が4,321人(99.0%)であり、このうちA1判定は1,853人(42.5%)、A2判定は2,468人(56.5%)であった。B判定は44人(1.0%)であった。C判定は0人(0.0%)であった。

 その後,平成25年10月から平成26年3月の間にB判定であった44名の内同意のあった31名を追跡調査した結果,1名が甲状腺がんと確定した。

 つまり,発症率0.023%,100万人あたり231人となる。

5 結果のまとめ

①従前の研究結果では100万人あたりの発症率は5.5人(4①)。

②福島県民健康調査では100万人あたりの発症率は593人

 *ただし,この結果には二次検査中に経過観察として保険診療に移行した対象者2525人が含まれていないという,過小評価に繋がる重大な欠陥がある。(http://fukushima-mimamori.jp/qanda/thyroid-examination/thyroid-exam-other/000396.html)(http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/2108

③3県調査では100万人あたりの発症率は231人となる。

6 事実評価

①まず,従前の研究結果と福島県民健康調査とを比較すれば,発症率の差異は歴然であり,約100倍である。

②次に3県調査の結果も,従前の研究結果に比べれば約42倍である。

③福島県民健康調査と3県調査を比較すれば福島県の発症率は約2.5倍である。

7 スクリーニング効果説の検討

 スクリーニング効果説とは,

・甲状腺がんは,症状が発現しないものもあり,検査を行えば多数の異常が発見されて当然,

・福島県民健康調査の結果に地域差がない

・5歳未満の発症者がない

というものである。

 しかし,

①従前の研究結果との発症率の差が100倍に上ることがスクリーニング効果だけで説明できるか疑問である。また,スクリーニング効果によって100倍もの発生率があるという研究結果がない(*後者については私が検索し得なかっただけかも知れないため,ご存じの方があれば教えて頂きたい)

②対照試験として行われた3県調査と比較しても約2.5倍の発症率の差異がある。しかも,福島県民健康調査においては,二次検査により経過観察が必要と判定され,保険診療に移行した対象者における発症者が含まれていない。要経過観察者からの発症者であるため,相当数の暗数が存在すると推察され,その差はさらに拡大する。

③3県調査における受診者は,調査時点における3県居住者であることから,発症者1名の詳細が不明

https://www.env.go.jp/chemi/rhm/attach/rep_2503a_full.pdf

44頁以下

④地域差については,地域別の発症者が示されているだけで各地域における発症者の推定放射線量が示されていない(避難の有無,避難期間に差異があることから単純に地域(福島第一原発からの距離)だけで放射線量の影響の多寡は推認できない)。

⑤暗数の存在からそもそも地域別発症者数が不正確となっている

⑥暗数となっていた対象者の中から5歳未満発症者が確認されている

という問題があり,スクリーニング効果説の根拠は乏しい。

 

8 提言

 以上によれば,福島県民健康調査における小児甲状腺がん発症者数は,暗数の存在にもかかわらず,従前の研究結果よりも100倍のレート,対照実験よりも2.5倍のレートで発生している事実がある。我々は,児童に対する責任としてこの事実を謙虚に受け止める必要がある。少なくとも暗数について早急にその実態を調査すると共に,福島第一原発事故時との因果関係の有無やその程度を解明するために早急に

①暗数となっている,要経過観察に回され統計結果から除外された2535名における発症者数の把握

②推定放射線被曝量を基準とした発症者割合の確認

を行うべきであり,これを強く提言する。