歴史的勝利に思う

昨日のラグビーW杯で日本代表が、世界最強チームともいわれるアイルランドから歴史的勝利を静岡県のエコパスタジアムで挙げた。

その歴史的瞬間を幸運にもその地で目撃した。

 

日本を応援する観客のほとんどが善戦を期待して、はるかアイルランドから訪れた緑色をまとったアイルランドサポーターは勝利を確信して、スタジアムに臨んでいた。

しかし、アイルランドサポーターの地の底から響くような応援はやがて静かになり、日本代表を応援する手拍子や叫び声がスタジアムを覆っていった。

 

ヘッドコーチは、前大会でやはり奇跡といわれる南アフリカ戦の勝利をもたらしたエディー・ジョーンズに続き、今大会はやはり外国人のジェイミー・ジョセフが指揮をとった。そしてキャプテンは、リーチ・マイケル。途中交代で、観客の大歓声を浴び、押され気味だった雰囲気が一気に変わった。逆転トライを挙げたのは福岡堅樹。見事な繋ぎの最後を締めた。同じくらい重要だったのが、PGを決め続けた田村。前半最後の長い距離のPGを決めたことが逆転の雰囲気を作っていった。

 

 もっとも番狂わせの少ないスポーツと言われるラグビーで、格上と言われ、今まで勝ったことのなかったアイルランドに日本が勝てたのはなぜか。

一夜明けて思うのは、今回の勝利は、外国人と日本人の力のまさに融合だったということ。今回の勝利を日本人の力だけで成し遂げられなかったことは誰にも異論がないだろう。

ラグビーの代表資格を外国人が得るためには、日本に継続して3年以上住んでいればいい(ただし、他国で代表経験がないこと)。だから、世界中からチャンスを求めて日本のトップリーグに優れた選手が集まり、今回の最強チームをはぐくむ培地となった。

 

このような視点をもつことは、他の分野でも当然必要なこと。例えばアメリカに世界のトップを目指す若者たちが集うのは、スポーツに限らない。ITや、物理、医薬の研究者。俳優もそう。アメリカ経済が世界一であるのは、政府が公共投資にお金を費やしているからではない。

アニマルスピリットを持つ世界中の人々が成功や、より自由な競争環境を求めて集って、その集積が新しい発展の原動力になっている。

 

アメリカのように、世界中からトップクラスの学生や研究者が広く日本に入ってきてくれなければ、日本の経済や企業活動が、ガラパゴス的にではなく,世界に対して再始動することはないだろう。そのための環境整備は遅れている。

 

それだけではない。外国人労働者に支えられなければ、大企業というよりもむしろ中小企業ほど企業活動を行うのも困難なのが現実。東京の小売・サービス業(コンビニや飲食店)で外国人が店員をされているのは、都会に居住されている方もご存じだろうが、地方にはまた別の姿がある。都会の人たちはその実態を知らないだろうが、日本人がやりたがらない水産加工業や農業などでを支えているのは外国人労働者。まさに、縁の下の力持ちとなってくれているのが現実なのだ。

それだけではなく、語学留学の名の下でどれだけ多くの外国人が勉強と労働を並立させて、過酷な環境の中で働いてくれているのか。

 

一方で、最近心配なのが外国人労働者についての日本人の感情。このところ、主にTwitterでMMT信奉者の方と議論をすることが多いが、共通するのは「バラマキ万歳、借金拡大による財政拡大で経済発展、移民(外国人労働者)排斥、反対する議員は馬鹿なので辞めろ」という感情むき出しの、EUの極右政党支持者のような大合唱だ。前二者については、いくら説明しても副作用があることや発展を遂げた日本ではその効果が一時的に過ぎないことについて聞く耳をもってくれず、既に思想というか信仰のような域に達しているのでもうあまり議論してもしようがないかなと思っている。彼らが政権を取らない限り、それが実現することはないからだ。

しかし、移民(外国人労働者)排斥は、仮に彼らが政権を取らないとしても、日本を下支えしてくれている外国人に嫌な思いをさせることに繋がっていく。そして、外国人労働者が日本から消えれば、その力に支えられている産業も日本から消滅する。

 

繰り返しになるが、選挙に勝つ為なら何をやってもいい、ということではない。タレント議員を擁立するくらいならまだ可愛いが、だれかを傷つけるような扇動の仕方は慎まなければならない。そのようなやり方が何を産んだか。第二次大戦前に、ヨーロッパで、そして日本で、大衆扇動がどれだけの結果をもたらしたのか、一度立ち止まって考えてもらいたい。