未来を築く

最近驚いたのは,若い弁護士と,子育て真っ最中で仕事に復帰した事務員さんと別々の機会に話したとき,あることについて同じ答えが返ってきたこと。

何についてかと言えば,それは日本の将来について。御二人とも日本の将来には絶望しか感じていない,とのことだった。

これは,高度経済成長の真っ只中に生まれ,バブルも経験した私にはちょっと考えられないことだった。20~30代の未来に対する夢も希望も幾らでも膨らませることができる世代がそのように考えているなんて。しかも,比較的に恵まれている条件にある層が。

 

しかし,このような考えは,拭えない霧のように日本全体を取り巻いているのだろう。人口が若年層世代を中心に減っていて,街中の商店街には少しずつ空きが増え,地方都市では百貨店の閉店が相次いでいる。このような事実を目の当たりにすれば,日本の衰退を国民,特に若い人達は感じざるをえないだろう。GDPが円安で少し伸びたから,あるいはトヨタが最高益を上げたといっても,そんなことは他人事だ。アベノミクスで景気が良いと強調されても,あーそうですか,といったところだろうし,消費税撤廃で好景気を,と言われても,そんなことありうるか?そして万一そうなっても本当か?という感じであろう。

 

ところで,私は財政健全化を重視する立場。だが,それを言うと,デフレ下で緊縮財政とってどうするのか?という疑問や反対がいつも寄せられる。

しかし,財政健全化の先には縮小する経済が止められないとしてもほのかに光が差している。

 

その理由は,失業無き物価下落は庶民の味方そのものだからだ。デフレというと,思い起こされるのは1929年の大恐慌。物価下落と高い失業率,金融機関倒産が相次ぎ,庶民にも大打撃を与えた。だが,現在の日本を襲っているのは,このような景気変動に伴う不況,デフレとは異なるのではないか?

物価下落は,生活関連用品について,賃金の安い国で低コスト大量生産してこれを大量に売りさばくというビジネスモデル(ニトリ,ユニクロなど)が国の隅々まで行き渡ったことによる影響と,円が一時ほどではないにしろそれでも1ドル360円~200円時代に比べれば高水準のままで推移していることにより,食料品を含めた輸入品が安価で購入できることによる影響が大きいだろう。食料品について言えば,関税も一昔前に比べれば随分安いし,魚などまで輸入品が幅を利かせている。電化製品は,値引き競争が激しく,その情報がネットを通じて一瞬で拡散するため,1商品当たりの小売店の利幅は町の電気屋さんが主流であった頃に比べれば圧倒的に下がっている。高価なものの筆頭格である住宅にさえ以前には存在しなかった低コスト商品のバリエーションが増えた。

つまりは,景気変動で需要が減少したので物価が下落したのではなく,日本という国に存在する社会システムの進歩・発展によって物価が下落する方向にあるというだけだ。

 

一方,大恐慌の頃の不況(デフレ)における最大のデメリット,失業率は上がるどころか下がり続けている。

これに応じて,賃金も徐々にではあるが上昇傾向にある。

 

これ(物価が下落し,失業率が下がり,賃金が上がる)のどこが問題なのか。みんな既成概念に囚われすぎているのではないのか?今から10~20年前位だったか,マックが1個100円になったときがあった(期間的にではあるが確か50円の時もあったと記憶している)。牛丼も300円以下だった。随分いい時代になったな,と思ったものだった。

時代を否定的に受け止めるのではなく,また,無理に昔の夢を追うのではなく,現状を認め,肯定した上で,「物価下落と低失業率の日本」を楽しむ,という方向に気持ちを切り替えていく,政策もその方向に切り替えていったらどうだろうか。物価が2%下がれば消費税が2%上がっても相殺される。そして,消費税と異なり,物価が継続して下落すればその幅は年々拡大していく。

 

私が財政健全化を重視するのは,庶民を守る社会保障を維持したいことと,若い世代の将来に重荷を背負わせたくないというのがその主な理由。だが,財政健全化の先には通貨高,というメリットもある(今の金相場高騰は通貨への信頼喪失の顕れだろう)。大企業を中心とした輸出産業にとってはマイナスだが,庶民にとっては,生活必需品や食料品も安く買えるというメリットがある。

経済成長再び,という見果てぬ夢をいつまでも負うのではなく,現実を肯定的に捉えて新しい日本像,未来像を作っていくべき時。若い世代の将来には光も指していることを政治が誠実に示していく時だ。色々と特徴ある政党が生まれた参議院選であったが,国民が,若い世代が待っているのは「未来を築く党」だろう。共感する方がおられることを願っている。