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新型コロナ都市伝説。なぜCt値が統一されていないのか。

よく、「PCR検査でCt値35以上の陽性者は、感染者として無意味」という話を聞かないだろうか。

これはアメリカやフランスの研究で、Ct値が35を超えると、PCR検査用の検体と同時に採取された検体を培養しても、培養ができなかった、という報告に由来するもの。

培養ができなければ、増殖性がないということなので他人に感染する力がないウイルスということになる。だから、感染者として取り扱うことは無意味だ、ということ。

そしてこれが意図的に高い値(40〜45など)に設定されているから感染力のないウイルスの死骸のようなものを拾ってしまい、意味もなく陽性者と判定される者が出てきて、作られた感染拡大が起きるのだ、と強く唱えている方たちがいる。

 

一見すると、すごく説得力があるように思われるが、実はこの考え方には大きな落とし穴がある。事実が確かめたくて色々と調査する中で、某メーカーの担当者の方からお聞きしたところをメインに簡単に解説する。

 

 

【Ct値】まずはCt値とは何?から。

これはPCR検査において設定されるThreshold line(閾値線)cicleからの言葉。

PCR検査は、過程(cicle)を重ねる毎に倍々ゲーム(実際には倍々ではなく、効率によって差が別れる)のように複製されるDNAに蛍光物質が含まれているため、増幅のcicleを重ねて一定量のコピーが存在するようになると蛍光の光が見えてくる。見えてくるだろうというところのあるラインで決められるのがThreshold line.

ここを閾値として、何回まで増幅しても見えて来なければそこで増幅は打ち切って陰性判定にするラインのことなのだ。

 

【試薬・機械のセットに性能差あり】

PCR検査は、検体(唾液や鼻咽頭拭い液)と機械だけあればできるのではない。増幅過程では、検体に2〜3種の試薬を混ぜて、機械にかける。実はこの試薬に結構な性能差があり、結果も相当差がでてしまうのだ。

以下は、Natureに掲載された論文(Analytical sensitivity and efficiency comparisons of SARS-CoV-2 RT–qPCR primer–probe sets | Nature Microbiology)のグラフを元に青山まさゆき事務所で作ったグラフ。

折れ線が上・左の方に位置しているほど少ないサイクルで少ないウイルス量でも検出できるということ。結構バラツキがあって、中国CDCの方がアメリカCDCやドイツの超一流大学病院(シャリテー)より上に位置していたりするのが驚き。

この図からすれば、35をカットオフ値とすると、シャリテーでは10の2乗ウイルスがないと偽陰性になってしまう。

 

【そしてセットは統一されていない】

そして、試薬は機械とセットになっている。このセットによってこれだけバラツキがあるので、統一したCt値(閾値)を決めるには、同一のセットが使用されなければならない。ところが、日本国内だけで使用されているのはなんと17種類。

これを統一するのは難しそうだ。

 

【定量検査は出来ないの?】

B型肝炎ウイルスのPCR検査では、ウイルスがあるか無いかの検査(これを定性検査といいます)ではなく、どの程度のウイルス量があるかの定量検査が行われている。

これが出来ればCt値とかまわりくどいことではなく、そのものズバリがわかるのに、なぜこれが行われていないのか、疑問だった。それにはやはりそれなりの理由があることも今回教えてももらった。

 

<スタンダード不在>

出来ない理由の第一は、検体の「スタンダード」がないこと。

スタンダードとは、簡単に言えばメートル原器のようなもの。各機械・試薬によって性能差があるため、スタンダードとなる試薬を配ってそれによって数値を補正することが必要になるが、今まではそれがなかったとのこと。

最近ようやく、WHOが標準品を作り、販売が開始されたところのようです(日本で販売されているかは未確認)。

 

<検体の中のウイルスのバラツキ>

もう一つ、こっちが結構解決困難なところ。それは、検体中に存在するウイルスが人体内のウイルス量を正確に反映していないだろうということ。

B型肝炎ウイルスの場合は、検体が血漿(血液中の液体成分で主には水)なので粘度が低くてウイルスが均等に存在していると推定できる。

しかし、新型コロナの検体は、鼻咽頭拭い液(つまりは鼻水)や唾液。粘り気が結構あるのでウイルスが均等に混ざっていることが期待出来ず、ひいてはウイルス量を測ったとしてもそれが人体内のウイルス量を正確に反映しているかがあまり期待出来ないということになってしまう。

鼻水よりも唾液の方が良さそうだが、これは今後の検証で、どの程度のバラツキがあるのかが確認されなければ実用的とは言えないだろう。

 

【結論】

ということで、単純にCt値が幾つ、といっても、メーカーによりバラバラ。同じものを使っているなら、35で良いとか40は回しすぎとか言えるのだが、現状ではちょっと無理。

スタンダードが政府によって配布されれば、定量検査とまではいかなくても、Ct値の統一くらいは出来るかもしれないということが今の結論と言えるだろう。