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感染症学会講演での分科会委員押谷教授の渾身の言。なぜ政治やマスコミはこれを重く受け止めないのか。

先週、タイムリーに日本感染症学会学術講演会が開かれていた。

そこで政府の分科会尾身会長が語った「ピークに達した」という言葉は各マスコミが大々的に報じたが、ここではより重要な提言がなされている。

それは、やはり分科会のメンバーで、クラスター対策に取り組まれてきた東北大学の押谷仁教授が講演でなされたもの。

「第1波に比べて、現在の流行ではある程度リスクを制御することはできているが、これをゼロにしようとすると社会・経済活動を著しく制限せざるをえない。今後、どこまでリスクを許容するか、社会的な合意を得るため真剣に考えていく必要がある」

という提言だ(NHK)。

 

今、国民の間で、そして国会で議論されるべきはまさにこのこと。

日本はなんだかんだで世界第3位の経済大国。貧困による餓死という人にとっての最悪の事態はほぼ根絶されているので無視されてはいるが、経済的な困窮は、長い目、広い目でみれば人の健康も生命も奪っていく。経済が細れば、医療にも社会福祉にも影響は及んでいくからだ。

 

その経済の先行きは極めて不安。

4〜6月期のGDPが−27.8%の落ち込み。その理由は自動車などの輸出、インバウンドの減少と国内消費の減少によるもの。アメリカもEUも同等以上の落ち込みなのだから輸出はさらに減少するだろう。入国制限が継続しているのだからインバウンドもゼロが続く。国内消費も、第2波についての総力を挙げてのマスコミの煽りで7,8月は相当痛めつけられている。

続く7〜9月期もひどいものになりそうだ。

一方で、新型コロナウイルスという疾患は、日本においては主に65歳以上、特に70・80代以上の高齢者かつ糖尿病などの持病がある方にとってハイリスクな疾患であること、50代未満では重症化率は低く、死亡率はさらに低くほぼゼロであることもわかってきた(下表は厚労省HP・「新型コロナウィルス感染症COVIDー19診療の手引き第2.2版」より引用。なお、この死亡率は2020年7月8日時点までの累計なので、最近の数字ではより減少している)。

 

 

今まで、新型コロナウイルスという見たこともない疾患に対する対応は、マスコミの煽りもあって恐怖が先に立ち、世界中で、そして日本で最優先項目とされてきた。

しかし、その病態(重症化の原因は免疫系の暴走であるサイトカインストームであり、ハイリスク層が明確であること)も明らかになり、対症療法主体とはいえ治療法(ステロイド、抗血栓薬、レムデシビル等)も進歩してきた(ほぼ対症療法しかないのは実はインフルエンザも同様)。押谷教授が言われるとおり、そろそろ、目新しい疾患への過剰反応は止めにして、社会・経済活動と新型コロナのリスクについての兼ね合いについて、エビデンスに基づいて、改めて社会的合意を形成すべき時期なのだ。

そして、どんな疾患でも同じだが、ゼロリスクを追い求めてもそれは不可能だということも正面から確認すべき事項。まずはリスクの許容範囲をできるだけ明確に定め、そのための対策は徹底すべきだが、不必要な社会的制限は取り払うべきなのだ。

なお、私の具体策などは「6月下旬以降は〜」に記したので参照されたい。

 

医学者の方が勇気をもって提言されたのに反して、情けないのがいつまでもPCR検査さえ拡大すればすべて上手くいく、といういわばPCR教のような神学論争を繰り広げている最大会派の野党議員たち(先日の厚労委員会は惨憺たる有様であった(前記「6月下旬以降は〜」末尾参照)。国難に立ち向かっているという自覚と、その自覚に基づく情報収集やその分析という努力が行われている様がまったく見えてこないのが情けない限りだ。

そして、煽り系のコメテーターだけを取り揃え、お手軽な番組作りを続ける民放(何かと批判の多いNHKだが、今回のニュースといい、伝えるべきを伝えていることが民放他社に比べて目につく)は、第二次大戦前の新聞と同様、自らの行動によって日本を破壊しつつあることを自覚すべき。