怒涛の丸投げ

持続化給付金の事務作業委託に関する問題。さきほど(29日午前11時34分)になって入札に関して経済産業省中小企業庁長官官房総務課より入札にあたって公表されていた資料が送られてきた。

 

その内容について,現時点で指摘すべきことを指摘しておく。

 

1. 内容がまさに1から10まで丸投げ。詳細は後記仕様書を参照されたい。2兆3176億円にも上る国家的事業のすべてを丸投げ,というのはいかがなものか。同様のケースとしては,やはり内閣の目玉事業であった「企業主導型保育事業」でも行われ,当時東京新聞が指摘したらしい(「ずさんな企業主導型保育~」)。こんな丸投げをしなければならないほど,日本の官公庁は足腰が弱くなっているのか。

 

2.丸投げしただけで注文がほとんどなされていない。民間であれば納期や提供される事務構築の内容など精査するのが当然だろうが,中身に関する注文らしい注文といえばコールセンターの規模(仕様書3.(3)1日最大5000件程度の相談を受けられる体制を構築すること)だけ。最も肝心な申請を受け付けてからから給付に至るまでの期間の目安,あるいは1日あたりの処理件数能力については何の注文もない。これでは,「3週間経っても振り込まれない」との声が巷に溢れるはずである。なお,梶山経産大臣は初日(5月1日)に受け付けた申請のうち,87%は既に給付した」(産経)とこの件の記者会見で胸を張ったらしいが,13%はほぼ1ヶ月経っても振り込まれていないのである。3日で給付されたドイツとはえらい差がある。

 

3.入札にあたっては,提案書を提出することになっており,落札者の決定方法としては評価手順書(総合評価点=技術点(200点)+価格点(100点))で評価されている。しかし,本件でもっとも肝要な前記2記載の申請受付から給付までの期間の目安(処理件数能力)がそもそも提案されたか,また重視されたかは不明である。

 

4.提案書に対するプレゼンテーションすら実施しないと予め定められている(入札公告1.(5))ので,発注者には,委託作業の「中身」に対する思い入れはほとんどなかったようである。事業規模2兆3176億円,委託予定額776億円の巨大事業の入札にあたって,である。いかに人のお金であるとはいえ,あまりに無関心過ぎないか?それとも受注予定者は誰か最初から決まっていて,内容を聞くまでもなかったのか?

 

5.そもそも入札に参加した業者は2者のみであったとのことで(関係者からのヒアリング),事業規模,報酬金額に見合った公正な入札状況であったかが不明である。

 

 以上のとおりで,以前の記事にも記載したが,本件委託金額が適正であったかどうかは不明である(現在調査中であるが,本件委託事務にかかるであろうコストから推定してた場合に過大であった可能性はに残る)。しかし,何より大事であるのは,入札にあたって業者に提示された仕様書に,過去に例のない緊急対策としてやはり過去に例のない規模で行う事業であることから要請される「Speed感」に対する強い発注者の「思い」が全く感じられない,ということである。

 

【開示された資料内容の抜粋】

仕様書
1.件名
令和2年度補正持続化給付金事務事業
2.目的
新型コロナウイルス感染症の拡大により、休業を余儀なくされるなど、中堅企業、中小企業、小規模事業者、個人事業者、フリーランスの方々の業況に大きな影響が出ているところ。
こうした事業者は、我が国経済の基盤を支える存在であり、事業の継続は極めて重要。
このため、感染症拡大により、特に大きな影響を受けている事業者の事業継続を支援するため、事業全般に幅広く使える給付金を支給するもの。
3.事業内容
上記の目的に照らし、次に掲げる事業を実施する。
(1)新型コロナウイルスの影響を受けた中堅・中小法人、個人事業主への給付金の支給
① 給付対象
詳細は経済産業省から指示するが、中堅・中小法人、個人事業主等最大200万者程度が対象となることも予想されるため、十分な体制を構築すること。
② 給付額
中堅・中小法人が200万円、個人事業主(フリーランスを含む。)が100万円を上限とする。計算式等の詳細は経済産業省の指示に従うこと。
③ 事務局の設置
(1)①からの申請を受け付けるため、
ⅰ)電子受付
ⅱ)電子申請に支障がある申請者のための受付を確実に実施できる体制
を構築すること。なお、ⅱ)の体制は窓口など提案によることとする。
なお、従業員等(窓口等で申請者と接する場合は申請者に対するものも含む。)への新型コロナウイルス感染症対策を徹底し、万が一新型コロナウイルス感染症に罹患した者が生じた場合も事業継続可能な体制とすること。
また、本事業に従事する者との間で秘密保持などの遵守事項を定め取り交わすこと。また、不特定多数の者が氏名・住所・口座番号・振込金額などの情報に同時に触れることのできない対策を講じること。
④ 申請書類
以下の書類を念頭においているが、必要な書類や様式等は経済産業省と協議の上決定する。
 前年度の確定申告書
 売上台帳
 虚偽の申請でないことの宣誓書
 実在確認書類
 中堅・中小法人:原則として法人番号
 個人事業主(フリーランスを含む):本人確認書類(パスポート、
運転免許証等)
⑤ 二重取り等不正防止のための必要な措置
二重取り等不正な手段による支給を防止するため、最低限以下の措置を講
じることとするが、詳細は経済産業省と協議の上決定する。
 事後的に申請内容に虚偽が明らかとなった場合には返納を求めるこ
とを明示。また、その場合には返納を求めること。
 虚偽内容が特に重大又は悪質な場合には事業者名等を公表すること。
更に特に悪質なものについては刑事告発等を行う可能性があること
を示した上で申請させること。
 確定申告書により、代表者氏名、事業所所在地等を確認。その情報を
事務局においてデータベース化して名寄せを行い、二重取りを防止す
ること。その他、二重取りを防止するために必要な措置を講じること。
⑥ 給付金の支給
上記(1)①への給付金の給付(贈与)については、別途経済産業省が交
付する資金(2兆円程度)を原資に行うものとする。なお、受給者への給付
金の給付は、以下により行うものとする。
ⅰ)受給者は事務局に給付申請書等を提出。
ⅱ)事務局は給付申請の内容について適格性等の確認を実施。また、給付
金の受領に係る委任について委任状の提出を受け、受給者と合意をする
こと。
ⅲ)事務局は給付に必要な額を都度経済産業省に請求(受給者の代理で受
給する旨も併せて申請)。
ⅳ)経済産業省は事務局に対して給付金の支給のために必要な金額を支払。
なお、給付金の支払に要しなかった金額は経済産業省に返還すること。
ⅴ)事務局は受給者に給付金を速やかに給付(銀行口座のみ。)。
ⅵ)交付通知書の送付。
上記の他、受給者への給付金の給付に関する事務の詳細については契約結
後、経済産業省と協議の上決定することとする。
⑦ 反社会的勢力の排除
上記⑥ⅴ)以外に反社会的勢力などからの申請及び振込を防止するために
必要な措置を講じること。
(2)HP等による広報
上記(1)①を広く周知するため、以下を実施すること。
① HPの設置
制度の概要、FAQ、申請の動画解説などを掲載すること。詳細は提案による。
② 広報
新聞、Web等の手段より広報を行う。詳細は提案によることとするが、掲載先等については経済産業省と相談の上決定することとする。
(3)コールセンターの設置
上記(1)及び(2)に対応するため、電話による問合せ窓口を以下により設置すること。
 複数拠点(国内に2カ所程度)に設置
 開設期間:契約締結日~2020年12月28日まで
 窓口時間:8:30~17:00(5~6月については上記時間帯は常に開設すること。7月以降は土祝除く日~金。)
 1日に最大5,000件程度の相談を受けられる体制を構築すること。(契約締結後直ちに体制を整える必要はないが、問合せ件数に応じて適時体制を構築すること。)
 不正受給等の内部通報にも対応していることを明示すること。
4.事業を実施する上での補足事項・注意点
本仕様書に記述していない事項であっても、仕様書の目的を達成するために提案があれば行う。
上記3(1)~(3)を、別紙1「情報セキュリティに関する事項」を踏まえて実施すること。
5.事業期間
委託契約締結日から令和3年2月28日まで
6.成果物
3.(2)②に用いた資料 1式
7.納入場所
中小企業庁長官官房総務課
8.情報管理体制
(1)受託者は本事業で知り得た情報を適切に管理するため、次の履行体制を確保し、委託者に対し「情報セキュリティを確保するための体制を定めた書面(情報管理体制図)」及び「情報取扱者名簿」(氏名、住所、生年月日、所属部署、役職等が記載されたもの)別紙2を契約時に提出し、担当課室の同意を得ること。なお、情報取扱者名簿は、委託業務の遂行のため最低限必要な範囲で情報取扱者を掲載すること。
(2)確保すべき履行体制
 契約を履行する一環として契約相手方が収集、整理、作成等した一切の情報が、経済産業省が保護を要さないと確認するまでは、情報取扱者名簿に記載のある者以外に伝達又は漏えいされないことを保証する履行体制を有していること
 経済産業省が個別に承認した場合を除き、契約相手方に係る親会社、地域統括会社、ブランド・ライセンサー、フランチャイザー、コンサルタントその他の契約相手方に対して指導、監督、業務支援、助言、監査等を行う者を含む一切の契約相手方以外の者に対して伝達又は漏えいされないことを保証する履行体制を有していること
(3)本事業で知り得た一切の情報について、情報取扱者以外の者に開示又は漏えいしてはならないものとする。ただし、担当課室の承認を得た場合は、この限りではない。
(4)(1)の情報セキュリティを確保するための体制を定めた書面又は情報 取扱者名簿に変更がある場合は、予め担当課室へ届出を行い、同意を得なければならない。
9.業務従事者の経歴
業務従事者の経歴(氏名、所属、役職、職歴・業務経験がわかる資料)を提出すること。
※経歴提出のない業務従事者の人件費は計上不可。