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バランスが崩れ過ぎた緊急事態宣言の要請

東京都と首都圏3県の知事が政府に緊急事態宣言を要請した。

西村経済相が「宣言も視野に入る」と発言し、菅首相も4日に記者会見の予定ということなので、おそらく首都圏などに限った部分的な宣言がなされてしまうのだろう(日経)。

 

この動きの背景には、単に陽性者数の増加傾向がなかなか収束しない、ということだけでなく、例えば東京都では12月30日、31日、1月1日と3日続けて新規入院者数が100人単位で増えたことが響いたのだろう。

 

その気持ちも当然理解できるが、その効果は本当にあるのだろうか?

日本と同じタイミング、同じ感じで増え続けているのが現在のイギリス。

ところがそのイギリスは、11月5日から生活必需品を除く小売り・飲食店などの全面閉鎖、在宅勤務ができない仕事以外などはステイホームで仕事しなくてはならない、という日本よりも強力なロックダウンを若干の間断を入れつつ取ってているが(ロイター)、このところ陽性者数はうなぎのぼりの様相で、1月1日の新規陽性者数は5万3285人。日本の10倍以上だ。

 

日本でも春先の緊急事態宣言は、実効再生算数からするとすでにピークアウトしてからのものであった(宣言前にR<1.0になっていた)とも言われていたが、このほかに人々の行動変容の効果が疑問視されるという研究結果もある(日経)。

また、現在では東京都の発表する資料(12月30日東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議(第26回))からすると、接触歴等不明(つまり感染ルート不明)の陽性者が60%前後に上っている上に、その陽性者からの濃厚接触者で発症したものの80%は、家庭・施設・会社での感染。したがって、春先のように飲食店などに営業の短縮や自粛を求めても効果があるかは疑問とされるところ。

 

 

また、「東京大学の渡辺努教授らが全国の約7800万台のスマートフォンから得たデータをもとに推定した。政府介入より情報提供が効果的だとの結果」が出たという(日経)。

 

この指摘はとても大事だ。というのは、春先と違ってかなりの数の国民が、不十分な政府の情報提供やマスコミ(特にワイドショー)の扇動にも関わらず、この新型コロナウイルスという新しい感染症が、この日本においては、50代以下の働き盛りにとっては、言われているほどの脅威をもたらすものでないことを知ってしまったからだ。

 

「出典:厚労省HP・【国内の患者発生に関する参考資料】○新型コロナウイルス感染症の国内発生動向(2020年12月29日18時時点)

 

そして、今後発令されるであろう緊急事態宣言は、中小事業者、芸術団体を含むイベント関連事業者、とりわけ飲食業者にとっては、文字通り致命的な打撃を与える恐れが大きい。忘新年会需要を奪われたことで存続を諦める飲食店も多かったと伝えられているが、今度の緊急事態宣言は、その期間と範囲にもよるが、発令の対象となった街の飲食業者を根絶やしにすることにも繋がりかねない。

 

一方で、緊急事態宣言の要請理由について小池都知事はこう語ったそうだ(前記日経)。

 

「陽性者数や医療提供体制の現状を踏まえると、直ちに徹底した人流の抑制を図る必要がある」

 

つまり、日本医師会会長や東京都医師会会長らが口を揃えて言っているように「医療崩壊を防ぐため」だ。

ところが、肝心の医療体制強化については、都知事からも医師会長らからも少しも声は聞こえて来ない。

東京都の感染症モニタリング会議(第26回)の議論を見ても、わずかに

 

「入院患者数の急増に対応するため、都はレベル 3-1(重症用病床 250 床、中等症等用病床 3,750 床)の病床の確保を医 療機関に要請し、約 3,500 床、うち都立・公社病院約 1,110 床確保している。また、都はすでに依頼している都立・公社病院に加え、その他の感染症指定医療機関(8 病院)に対し、中等症等病床の倍増(約 70 床)を依頼した。」

 

と表記されているにとどまる(同会議「専門家によるモニタリングコメント・意見【感染状況】」)。

大阪府で吉村知事がされたように、知事自ら民間病院に新型コロナ対応病床の準備を掛け合うなどは全くされていないようだ(産経)。

 

自分たちの権利を守るためにものを言ってくれる圧力団体もなく、潰れろと言われるに久しい緊急事態宣言を、客観的根拠も示されないまま受け入れざるを得ない中小事業者、飲食事業者、芸術団体を含むイベント関連事業者。

一方で、強力な政治力を持ち、大阪府知事からの要請も「民間に必ず感染症の専門医がいるわけではない。ゾーニング(区域分け)など感染防止のノウハウも、設備投資の余裕もない」「院内感染からクラスター(感染者集団)が発生すれば、病棟を閉鎖し、経営を直撃することになりかねない」(府病院協会会長・前記産経より)とキッパリと断れる医療界(ただし、東京都知事は要請すらしていない様子)。

そして、緊急事態宣言が政治的得点となることを熟知して、都立病院を新型コロナ専門病院に改変する、民間病院に頭を下げて頼み込むなどの医療体制強化には手を付けず、もっとも派手な政府への要請というパフォーマンスを行う東京都知事。

 

やはり今のこの国はバランスが崩れ過ぎている。

このままで、仮に緊急事態宣言が出されたとしても、国民が春先のように唯々諾々と従うかは、甚だ疑問と言わざるを得ない。