トレードオフ

 日本はこのままで本当に大丈夫か,と思ってしまう時がある。
 それは,政党だけでなく,政治に強い関心を持つ層が,トレードオフの関係を受け入れようとしないから。例えば,アメリカでは税を安く,と主張する立場の者(共和党のティーパーティなど)は,税金を安くするために小さな政府(つまり社会保障はいらない)で十分,と主張している。一方で,欧州では,大きな政府(つまり社会保障の充実)のために高い消費税を受け入れている。

 ところが,日本では消費税凍結や廃止を訴える政党や個人で,それと引き換えに社会保障は縮小していい,と主張する人を聞いたことがない。日本の予算のうち,社会保障費は一般会計歳出の30%,政策的経費の50%を占めている。消費税凍結や廃止を訴えるなら,トレードオフで小さな政府にしろと本来いうべきなのであろうが,そういう訴えをされる方たちはむしろ社会保障の充実を訴えている。
 ちょっと考えれば完全に破綻していると思うが,それで平然としているのが不思議だ。ただし,アメリカでも最近はMMTという怪しげな金融理論に乗っかって負担少なき大きな政府を訴える政治家が出てきているようだが。

 

 「費用でしかものを考えられない」との声も寄せられたが,「費用を考える」ことは社会では当たり前のこと。費用に見合う負担増はするな,社会保障は維持しろ,と叫ぶのは大人のやり方とは思えない。また,「そこを何とかするのが政治家」という声も寄せられることが多いが,どんな政治家や政党も魔法の杖は持っていない。できるという者がいるとすれば,できるように見せかけているだけだ。

 先進国では消費税は普遍的な税制。日本でも消費税だけを悪者扱いするのは止める時期に来ているのでは。

 なお念のため付言すれば,税率上げが法定されているのでここのところ消費税について言及しているが,所得税,法人税,配当課税などを含めた負担の見直しは当然必要だし,歳出についても一層の工夫と削減が必要。総合的な負担とサービスの在り方をこの際根本的に洗い直すべきと考えている。