「本気度ゼロ」

昨日の厚労委員会。私がまず田村大臣に尋ねたのは現状認識。

田村大臣は、「国家的でなくて世界的危機」と答えられた。だが、本当にそう思っているのか?私は大臣、与野党、そしてマスコミも「本気度ゼロ」だと思っている。

なぜか。日本ではマスコミも野党も与党も第3波と大騒ぎの状況。しかし、他国と比べれば波がある感染状況の最も良好な場合以下。グラフにするとよくわかるが日本は下に張り付いている。

感染者数、重症者数も確かに増えてはいるが、欧米と比べると実数ベースで感染者数、重症者数、死亡者数のいずれもEUの10~20分の1、アメリカの300分の1程度。

ではなぜ、日本はこれだけ少ない数字で医療崩壊の懸念を日本医師会会長や東京都医師会会長が述べられ、現場の医師の方が危機感を持つのか。

それは、医療体制がシステムの問題としてドイツなどに比較して脆弱であるから。

大臣が言う通り、「国家的危機を超えた世界的危機」というのであれば、もっと本腰を入れた施策をとるべき。

このパンデミックがいつ収束するかわからないし、収束というよりは感染者数は世界的に増減を繰り返しながら拡大している。ワクチンも、感染予防効果ではなく発症予防効果。日本では元々発症率は欧米より格段に低いのだから、これで収まるというものでもなさそうだ。

したがって、ハーバード大などの予測どおり3年越しの対策が必要であるし、別の感染症に備えた10年越しの対策も練る必要がある。

ここで参考になるのはドイツ。ドイツでは、今から8年前の2012年12月21日に、日本の国立感染症研究所にあたるロベルト・コッホ研究所などが作成したまさに今回を予言するかのような中国発のパンデミックに関するリスクシナリオに基づき、着々と準備を進められていた。その結果、今年2月の時点で、人口10万人あたりICUが29.2床(ちなみに日本は5床)、3月初めの時点で2万5千床、さらに4月には4万床にまで増やすという見事な対応をし、イタリア・フランスの患者まで受け入れている。このような見事な対応がなされたのは、まさにナショナル・セキュリティの問題として正面からとらえてきたからだろう。

ところが、日本では大臣が口では国家的危機、世界的危機と言い、野党もGoToについては執拗に入れ替わり立ち替わり攻撃するが、この本質的問題には誰も手をつけるどころか口に出すことすらしない。

本質的問題とは、そう、脆弱な医療体制の強靱化である。

そのための第一の手段は、最前線に立つ急性期病院勤務医の増員。さらにそのためには医師数の増大は不可欠であり、そこには日本最大の既得権益団体、日本医師会が立ちはだかる。

医師一般というよりは、急性期病院の勤務医数が足りないのは、新型コロナパンデミック以前からの問題であり、それがこの「国家的危機」により顕在化しただけだというのに、そこにはマスコミも含めて誰も声を上げようとしないのだ。

厚労省は、医学部定員を一人も増やさない、という政策をH19まで長年続けてきた。急性期病院の医師不足などの声を受け、平成20年から3年だけ2~9%増やしたが、現在は、1%未満の小規模な定員増が続いているだけ。

そして驚くのは、この状況で、「医療従事者の需給に関する検討会」では、今年8月の分科会で、「医学部臨時定員増に係る方針について」という大項目で「将来的な医学部定員の減員に向け、医師養成数の方針について検討する。」としているのだ。11月も同じ。新型コロナによる医療崩壊、病院勤務医の過重負担が言われている今、ウイズコロナの時代と真逆の方針ではないか。

普通に考えればが今後を見据えた中長期的対策は、医師数の大幅増員。良い例として1999年から始まった司法試験改革があった。弁護士偏在、弁護士不足を補うために合格者数を700名程度から一気に3倍の2000人以上に増やし、15年経った今、現に弁護士の供給は十分となり、弁護士アクセスが大幅に改善した。当初は合格者大幅増により質の低下が懸念されたが、むしろ制限的過ぎる枠による参入制限に安堵していた不勉強な弁護士が駆逐される結果となった。

また、増やしても都会の弁護士が増えるだけ、といわれ当初はその傾向も見られたが、やがて食べるために競争相手のいない地方都市や過疎地に自ら若い弁護士が赴くようになり、偏在も解消した。先ほどの、医療従事者の需給に関する検討会の資料をみると、医師需給のみを重視し、医学部定員の減員が議論されているだけ。中期的課題として、ウイズコロナの時代に対応するためには、不足しているものを補うしかないし、医師数が増えたからと言って医療費の予算が大幅に増えるというものではないはずだ。

第二の手段は、新型コロナ受け入れ病院の拡大。日本では外来減少にも関わらず、コロナ受け入れが可能でありそうな病院でも、半数以上~1/4が受け入れていない、との分析が日経にのった(「コロナ対策データ基盤に」)。

一方、ドイツやスウェーデンでは公立病院の割合が高いので、コロナシフトが即座に行われている。ドイツでは対応するICUがわずか一ヶ月で1万床も増えたし、スウェーデンでは受け入れ病院と指定されると耳鼻科だろうがなんだろうが従来の診察を一時中断し、患者を受け入れ、その病院の患者は他病院に移送された。

日本でも実は国にやる気さえあればそれができる。全国に140箇所ある国立病院、国立大学病院45箇所など国が開設した病院だけで320箇所ほどある。これらを感染症対応の拠点病院化とし、病床数及び人員を増やすと共に、ドイツ、スウェーデンのような病院内での科の枠組みを超えた対応と、病院間での移送をフレキシブルに行えば良いのだ。

また、各自治体が運営する公立病院でも拠点病院を設け、自治体の枠組みを超えた助け合いはもっと簡単。ただ実行すれば良いだけだからだ。県によって重症用病棟などの繁忙具合が明らかに違うのに、各県ごとで大騒ぎとなっている。EUなどみると、ドイツがフランスやスペインの重症者を受け入れるなど、州どころか国を超えての助け合いが行われている。大阪が、北海道が、東京が、と騒ぐのではなく、47都道府県が垣根を越えて移送し合い、融通したらどうか。

最初に言った「本気度ゼロ」とは、こういった根本的な問題に手をつけることなく、与野党共に目前のテーマ(GoTo、緊急事態宣言、医療崩壊への懸念)に固執し、ただ営業時間制限や国民への自粛呼びかけをするだけだからだ。

それで国が持つならば良いが、おそらくは持たない。なぜなら3つの懸念があるから。

①欧米並みの感染率、重症化率となった場合、即座に医療崩壊する。

②日本のようなむしろ良好にコントロールされている国がそれでも医療崩壊の危機ということで経済を抑制しなければならない、というのであれば、今や日本の主要産業であるサービス業を中心に倒産、廃業、自殺者増大の副作用が大きすぎる。

③世界的にみれば新規陽性者数は増え続けており、収束は見通せないことも忘れてはならないし、ワクチンに効果があるといっても元々低い日本の感染率、重症化率からすれば、日本の現状を変えるか、ゲームチェンジャーとなるかは不明。

くだらない政争的議論は止めて、政治は真正面からこの問題に取り組むべきだ。