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「調べなけりゃ何も始まらない」は本当か。

若き力士が新型コロナウイルス感染症で死亡した件について、ある芸能人が「(PCR検査で)もっと早く調べられたら」とコメントしたことについて、そうではなく「もっと早く診療できたら」が正しい批判という投稿をSNSにしたところ、「調べなけりゃ何も始まらないので正しいと思いますよ」とのコメントをいただいた。

ある意味で重要な指摘だと思う。この極めて一般的な誤解が、PCR検査偏重の世論の基本にあるからだ。

 

 そもそも診療というのは「始めに確定診断ありき」ではない。当然ながら「始めに○○検査ありき」でもない。

 

①ある「困った」を抱えて医療施設を訪れた患者の「困った(愁訴)」の特徴や患者の背景因子(年齢・性別・病歴etc.)を併せ考慮して「疑われる疾患名」を複数想起し、

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②それを確定していくための「検査(触診、視診、血圧・脈拍、血液検査、CT検査、内視鏡検査etc.)」を積み重ねて複数ある診断名候補を徐々に絞り込む(これを「除外診断」という)

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③それと同時に「もっとも疑われる診断」や「想定される最悪の診断」を考慮しながら治療は進める(「確定診断なければ治療なし」ではない)

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④推理と証明(検査はヒントを得るための手段であると同時に証明のための手段でもある)の結果、動かない診断に至ったことを「確定診断」という。確定診断に至る道筋は一つではなく、明確な診断基準に合致して判定される場合もあれば、病原体そのものズバリが検査によって判明し(がんなどの病理検査、細菌培養検査、ウイルスのPCR検査)確定診断に至る場合あるし、あるいは除外診断の積み重ねで残ったもの勝ち的な確定診断に至ることもある。

(なお、④に至らず「疑い診断」のままで治療を進めていくこともよくあること。それで「困った」が改善されれば、「確定診断」は必要ないからだ。)

 

 つまり、すべての診療とは、「始めに答えがある」ことによって始められるのではない。愁訴や所見というevidenceを基に積み重ねられる推理によって答えを求めつつ、現実に対処していくという一連の作業なのだ。そして、その答えの求め方は一つではない。

 

 新型コロナウイルスによる一連の病態の場合(あまりに症状が幅広いので「新型肺炎」ではなく「新型コロナウイルス感染症候群」の方が適切では?)、臨床診断基準が日本では確立されていないので、確定診断に至るにはPCR検査が必要となるが、別に「確定診断」されなければ医療として「何も始まらない」かといえば決してそのようなことはない。

・最近の欧米からの知見では、新型コロナウイルス感染ともっとも相関性がある症状は「味覚・嗅覚障害」。

・中国からの報告では入院時の血液検査のDダイマーの値が重症化を予測するマーカーになるという。血栓症を合併し、脳梗塞や肺血管の塞栓の原因となるとの報告もあるが、Dダイマーは血栓症の発症を示すものであり、当然因果関係はあろう。

・日本の臨床現場では血液検査でわかるリンパ球の減少が一つの目安とされているという。

・CT検査では肺炎症状が明確に出る前から特徴的な所見がみられるというし、肺の換気機能の低下はパルスオキシメーターを常時装着していればすぐにわかる。

 一方、治療という面においても、アビガン等のウイルスに直接作用する未承認薬だけでなく、抗血栓薬(例えばフサン)は重大な結果をもたらす血栓症の治療に効果的なことは明らかだ。韓国の報告ではフサンに優れた効果が認められたとのこと。

 そして、以上の「検査・治療・観察」については、患者に現れた症状に対して、「経過観察中の検査」や「対症療法」として行うべきもの。

 

 結局、「PCR検査をしなければ何も始まらない」というコメントに代表される世間の誤解が、今の厚労省のサボタージュを側面から支援してしまっているのだ。

 

 ただ、その誤解も臨床医療に触れることのない方々にとってはやむを得ないところ。このような診療の基本についても、20年以上医療訴訟に専門的に取り組み、幾多の臨床医や日本を代表するような専門家にお会いして症例の検討をさせていただくことを通して体感し、医学文献からの知識も併せてたどり着いたところ(この関連で特にお勧めの本は「臨床力ベーシック」)。

ただし、専門家というのは、私も私の専門分野(法律)についてはそうだが、往々にして一般の方が「何がわかっていないかがわからない」ということが多い。そういったところを「翻訳する」のが実は弁護士の仕事でもあり、それができるところが、弁護士がトップマネジメントに向いているところでもある。アメリカでは、各企業トップに始まって大統領やFRB議長まで弁護士が就いている所以でもあろう。

 ということで誠に僭越ながら少し解説をさせていただいた。